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2019.03.28
「現場力」を再構築する組合活動を

戦後日本の経済発展の原動力となった、日本的経営の神髄でもある「現場力」が、組合活動とどのように結びついているものなのか、禹宗?・連合総研編『現場力の再構築へ―発言と効率の視点から』(日本経済評論社、2014)から探ってみたいと思います。

同著では、「現場力」とそれを支えてきた協調的労使関係が、1997年の金融危機とそれに次ぐ構造調整を転機として本格的に企業行動の変化、とりわけ株主重視や短期利益重視へのシフトによって変貌して(弱まって)いるのではないか、と指摘しています。
そして、「現場力」を「現場のある程度のチームワークと裁量権に基づき、職場自らが余裕をもって、日常的なオペレーションを迅速・正確に行い、なお問題の発見と解決にあたることのできる力」と定義しています。
また、「チームワーク」の要素として次の3点を挙げています。

  • OJTを通じた幅広い技能の形成
  • コミュニケーションを通した情報の交換
  • チーム・リーダーへの訓練機会の提供とリーダーシップ形成を通じた「オペレーション」および「問題発見・解決」

「裁量権」は、チームに与えられた次の2つの自律性(チームメンバーの技能習得と情報共有へのモチベーションを向上させ、問題解決に必要となる個々人の能力)によって機能する、としています。

  • チームメンバーにある程度分有される自律性
  • チーム自身の自律性

そして、適正な裁量権を与えられたチームは、チームの担当する仕事のPDCAを運用する経験や、その中で必要な調整(これにはチーム内部の資源分配と、チーム外部との折衝の両方が含まれる)の経験を積むことになり、これが現場の問題発見・解決に直接寄与する、としています。
そして、適正な「余裕」の設定が、現場力に大きく寄与する、としています。
日本は目標管理制度が生産現場まで浸透して、伝統的な科学的管理のように、あらかじめ決められた業務量を粛々と処理すればそれで済む管理方式ではない。経営方針に合わせて職場の目標を自ら決め、かつその手段を自ら日々探さなくてはならない管理方式のもとで働いているので、適正な余裕の設定が必要である、としています。
「余裕」が、チームワークを直接的に良くし、裁量権の維持・拡大を通じて間接的にもチームワークに有利に働くことで現場力に資する、としています。

問題は、この「現場力」の定義の中に労働組合が入っていない、ことを同著は指摘します。
「現場力」が広い側面での労働者の参加に依拠しているものの、労働組合による「力中心参加」 は必ずしも前提としていないこと。労働組合は組織的参加を通して「職務中心参加」 が円滑に行われるための、いわば外堀を守る役割を果たすだけになっている、としています。
ところが、チーム・リーダー層の労働組合に対するロイヤルティーとコミットメントが、近年の職場の多忙と重なって、チーム・リーダー層が組合活動に参加できない状況をつくり出しており、「職務中心参加」が円滑に行われるための、いわば外堀を守る役割はさらに低下するものとなっている、と指摘しています。
心配はそれだけではありません。労働組合が企業の業績目標達成プロセスにコミットメントしすぎて(業績目標達成に向けた労使間の協議がその密度を増しており)、「現場力」への組織的参加が、「職務中心参加」の外堀を守る機能を果たせなくなって、組合をして現場に必要な余裕の設定に消極的に仕向ける事態を生んでいないか、と心配しています。

さらに、近年の企業行動の変化は、①非正規雇用の増大がチームワークを弱め②業績管理の強化およびこれに結び付いた成果主義が現場から裁量性を失わせ③短期利益重視が余裕を奪ってしまい「現場力」を低下させるものとして機能していないかと警告を発しています。
そればかりか、
①非正規雇用の増大が組合の組織範囲を狭め、組織率を低下させ
②業績管理の強化において従業員に対する経営側のコントロール強化が、組合の団結力・交渉力にマイナスに働き
③チーム・リーダー層の職場組合活動に対する参加がままならぬ状況がつくり出され、組合の活力を低下させるにとどまらず、将来の組合リーダーの育成にも支障をきたし
④組合が短期的な業績目標達成にコミットしすぎたが故に、中長期的な展望をもって企業行動をチェックする組合行動ができなくなっているのではと指摘しています。

「現場力の再構築」に貢献する組合活動をどのようにつくり出すのか、私たちは考える必要があります。

※引用の原著は氏原正治郎「Ⅲ 団体交渉と労使協議―わが国における経営参加の一つの問題」隅谷三喜男編(1979)『現代日本労働問題』東京大学出版会p.184-185における「組織的力中心型参加」と「個人的職務中心型参加」。氏原は経営参加には2つのタイプがあるとし、前者を「事業場、企業において、そこに雇用されている従業員または組合員が、その代表を通じて、管理者側の経営上の決定に対して、一定の発言権を持ち、場合によればその決定の執行に対して、一定の役割を果たそうとするもの」として、後者を「個々の労働者または労働者の自発的グループが、金銭的刺激や管理者の統制、制裁による強制などによらず、仕事の達成、品質の向上、欠陥の除去、作業方法、機械設備、安全衛生装置の改善などを追求し、人間に本来的な労働の満足感を得ようとする自発的意識的運動」と定義。

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