2019.07.01
「組合員の組合離れ」への打開策(上)

朝日新聞の2019年5月3日朝刊5面で、「若年層では自民党支持が高まっている。山田昌弘中央大学教授(家族社会学)は『昔の若者は"制度を新しくすれば生活が良くなる"と野党を支持したが、今は現状にそこそこ満足し"将来が不安で今を壊して欲しくない"と与党を支持する』と解説。『若者も昔は、ほとんどが正社員で労働組合の参加率も高く、野党支持が組織的だった。今は増大した非正規雇用者を組織化できない』との見方を示した」と紹介しています。
示されたデータによると、1998年の自民党支持率は20代が17%、30代が19%であったものが、2018年では18~29歳が35%、30代が37%と、この20年間で約2倍に高まっているのです。

現代の若者が現状に満足する理由を、本田由紀2014『もじれる社会―戦後日本型循環モデルを超えて』ちくま新書で、3つの調査データ(日本社会学会2005年「社会階層と社会移動」全国調査、日本生産性本部・日本経済青年協議会「新入社員の「働くことの意識」調査、日本教育学会2008年「第2回若者の教育とキャリア形成に関する調査」)を使い、次のように説明しています。
「就労者に関して、労働時間および収入とこれら四つの社会認識(『能力主義』、『社会不満』、『希望』、『自己責任』―筆者引用)の関係をみると、いずれも労働時間との相関は見られないが、収入の高さと『能力主義』および『自己責任』の間には相関がある」(一一四頁)。
「若者の『希望』や『自己責任』の意識は、『社会不満』と相反する関係にあり、個人の力を信じる者ほど社会に対して批判的な視線をもちにくいという傾向が若者の中には存在している。このことだけでも、若者の中に社会変革への動きが生じにくいことの説明として成立している。『自分で自分の道を切り開ける・切り開くべきだ』という思いが、『社会の構造に問題がある』という認識をむしろ抑えるように働いているのである」(一一六頁)と若者の社会に対する満足度が高くなっている理由を説明しています。

さらに、「『能力発揮』や『能力主義』、すなわち人々が発揮した能力に応じて社会的な地位を獲得するような体制を望ましいものとする見方は、若者の中に広く存在している。そして、そうした考えが強いほど、『希望』や『自己責任』すなわち自分の力で自らのあり方を決定していくべきだ、決定していけるという考え方が強くなるとともに、それらは『社会不満』つまり社会の構造に対する批判的な問いかけを弱めるように作用する。『能力主義』は是認しつつ『希望』や『自己責任』の志向が弱い者の中では『社会不満』は強いが、それを変革への効力感すなわち『希望』を欠いた不満として、潜在的にくすぶり続ける可能性が強い」(一一九頁)と解説しています。
ただし、「ここで用いている『希望』という変数は、その構成要素の中に、「日本は若者にチャンスが開かれている社会だ」という個人の成功という意味での『希望』と、『社会の問題は人々の力で変えていくことができる』という社会の変革という意味での『希望』との両面をふくんでいる。そこでこの二つを改めて別に取出し、『社会不満』との関係をみると、『社会不満』と個人の成功チャンスの認識との間には明確な負の相関があり(マイナス0・252)、『社会不満』と変革への『希望』の相関は統計的に有意ではないが符合はマイナスである(マイナス0・024)。個人のチャンスの認識と社会変革の『希望』との間には、強い正の相関が見られる(0・343)。ここから、『社会不満』が強くともそれは『社会を変えてゆける』という認識は結びつかず、逆に個人として成功できると考える者の方が(彼らは『社会不満』が弱い)、『社会を変えてゆける』と考えがちであることがわかる。繰り返せば、社会構造に問題がある(『社会不満』)のでそれを『変えよう』(社会を変革する『希望』)という意識のつながりが、日本の若者の中には見出されにくいのである」(二四四~二四五頁 脚注)と分析しています。

そして、「こうしてみると、『能力発揮』を称揚する考え方が社会に根づいていることは、社会の統治という観点からきわめて効率的である。『能力発揮』は、自分に『能力』があると感じる者に対しては意欲や努力を『加熱(warm-up)』する方向へと、逆に自分には『能力』がないと感じる者に対しては不満を『冷却(cool-out)』する方向へと、異なる作用を同時にもちうる」(一二二頁)、とまとめています。
組合員が組合活動に関心を示さない、参加しないという状況の背後に、山田教授や本田教授が示した若者心理があります。「組合員の組合離れ」に対処するには、このような若者心理への打開策が求められています。

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