2019.09.02
労働界で忘れ去られた貴重な研究(上) ―尾高邦雄の「二重帰属意識」論―

今日の労働界の喫緊の課題が、組織率の向上(組合員の拡大)であることは、周知の事実でしょう。

しかし、闇雲にその課題に取り組んでもなかなか成果に結び付かず、苦労されているのではないでしょうか。

組織化・拡大に取り組む前に、組合に加入する人とはどのようなタイプの人たちなのかを考えておくことが重要です。

その思考作業を行うにあたり、避けて通れない研究があります。それは、尾高邦雄の「二重帰属意識」論です。

帰属意識とは、「ある集団もしくは組織体の成員が、たんにかたちのうえでそれに所属しているだけでなく、生活感情のうえでも、その集団を自分の集団、自分の生活根拠として感じ、それゆえにまた、自分自身を意識するばあいにも、何よりまず、その特定の集団の一員として、それを集団のために一定の役割を果たすべきものとして感じている度合いである」(七頁)と尾高は定義しています。

尾高は、1952年から1967年という15年の長きにわたって、労働組合が組織されている大手企業9社(日本鋼管、宇部興産、日本光学、電力、デパートなど)70以上の事業所に属する約3万3千人の帰属性タイプの分布(29の事業所の集計単位)を調査しました。

尾高が示した二重帰属意識を探る方法は、次の6つの会社に対する評価項目、
(1)会社の労働条件
(2)会社経営の民主性
(3)経営方針の良否
(4)経営幹部の信頼性
(5)会社の営業成績
(6)会社全体への評価と、同じく6つの組合に対する評価項目
(1)労働条件の改善についての組合の実績、
(2)組合運営の民主性
(3)運営方針の良否
(4)執行部の信頼性
(5)組合の活動状況
(6)組合全体への評価、を5段階順序尺度で
測定したものです。

その結果、プロプロ(PP)型の割合が、他の4タイプに比べて著しく大きく、30%以上に達する分布が29集計単位中8つになっていること。

さらに、プロプロ(PP)型の割合が一番多いけれども、30%には達しないものが5つあり、半数近くになっていることを発見しました。

さらに、予想外の結果として、コンコン(CC)型タイプ、つまり不平不満型が13%の線を越える割合は29集計単位中の半数以上(18)に達し、さらに20%以上に達して、プロプロ型より多く最大の分布になっているタイプが29集計単位中の12で見られることを特徴として挙げています。

尾高は、プロプロ(PP)型のような二重帰属型やコンコン(CC)型不平不満のような順相関型の割合がどこでも顕著に大きくなるということ、会社一辺倒(PC)型や組合一辺倒(CP)型の割合の低いことを明らかにしたのです。これが尾高の「二重帰属意識」論です。

この結果を踏まえて、尾高は次のように結論付けています。「これまでの労使の指導層の人びとは、プロプロやコンコンのような順相関型の存在にはほとんど関心をもたず、むしろプロコンやコンプロのような逆相関にだけ注意を向け、そしてたがいに自分たちの側にだけ忠実な人びとをできるだけ多くすることにつとめることが多かった。
言い換えれば、かれら労働者たちをひとりでもおおく自分たちの陣営に引き入れようとして、コンプロ(組合一辺倒型)とプロコン(会社一辺倒型)の育成競争を試みることが多かったのである。だが、このような逆相関型の育成競争は、果して労使関係の安定化に寄与しうるであろうか」(五五頁)。そして、今後の傾向として、「プロプロがしだいに減り、かわりにコンコンが増えるという傾向が将来も続くであろう」(五七頁)としています。

今日の労働組合幹部の皆さんが、尾高の「二重帰属意識」論を踏まえて、考慮しておかなければならないことは、尾高の次のような指摘です。

「ある時期のある企業における帰属性タイプの分布のいかんは、そのときそこで実施される会社の経営施策や従業員にたいする労務管理のやり方の成否とも、またそのときそこに採用されている組合の運動方針や組合員に対する指導教宣の方法の有効性とも、決して無関係ではない」(二三頁)。

今日の、日本的経営の衰退や、個別化・多様化が進む現状を考えると、尾高が予想したコンコン(CC)型が増加していることが十分に想像できます。だからと言って、組合員の組織化・拡大を図るとき、そのコンコン(CC)型をコンプロ(CP)型に誘導して、囲い込めばいいというわけではありません。
従業員の不平不満を増幅させて労働組合の組織化や加入に導くのではなく、プロプロ(PP)型の育成を図ることを目的として取り組むことが、従業員ニーズに一番フィットした現実的対応となる、ということなのです。

(i)尾高邦雄(1995)「労働者意識の構造」『尾高邦雄選集 第4巻』
(ii)プロプロ(PP)⇒会社と組合を同時に支持。会社と組合共に帰属意識の高い人びと
プロコン(PC)⇒会社一辺倒型:会社は支持するが組合は支持しないタイプ
エヌエヌ(NN)⇒是々非々型:会社、組合いずれにたいしても賛否どちらともつかぬ中間的な態度をとる人びと
コンプロ(CP)⇒組合一辺倒型:組合は支持するが会社には批判的なタイプ
コンコン(CC)⇒不平不満型:会社と組合のいずれも支持せず、いずれに対しても反対的もしくは批判的な態度をとっているタイプ

« 前回の記事