2019.10.01
労働界で忘れ去られた貴重な研究(中) ―尾高邦雄の「二重帰属意識」論―

前号で、組合員の組織化・拡大を図っていくとき、従業員の会社への不平不満を増幅させて労働組合の組織化や加入に導くのではなく、会社・組合双方に好意的な人びと=プロプロ(PP)型の育成を図ることを目的として取り組むことが、従業員ニーズに一番フィットした現実的対応策となる、ということを尾高邦雄の「二重帰属意識」論を引用して述べました。
ところが、右記のような発想は、従来型での組合加入や組織化の一般常識からは容易に出て来ません。
なぜなら、これまでの組織化のスタイルでは、会社への不平不満から労働組合が作られたり、組合に加入したりすることの方が現実的であったからです。

しかし、そのような不平不満を原動力として組織化を進めているだけでは、組織率拡大ということに関しては、効率が悪いだけでなく、なかなか成果に結びつかないのも現実です。
非正規労働者の組織化に成功した労組の事例を見ると、中村圭介(2009)でもあきらかですが、組織化の論理展開はプロプロ(PP)型の組合活動の展開を呼びかけてなされていることが示されています。
当社が2018年末に行った、某労働組合連合会での会社と労働組合に対する満足度調査(N=8,138)から、組合員の帰属タイプを算出すると、二重帰属型のプロプロ(PP)型は40%、会社一辺倒(PC)型は15.9%、組合一辺倒(CP)型は11.7%、不平不満型コンコン(CC)型は32.4%に分かれていて、尾高の発見は、今日でも十分に見られます。
したがって、組合員の組織化・拡大を図っていくときは、会社・組合双方に好意的な人びと=プロプロ(PP)型に呼びかけることが要となります。

問題は、前号でも指摘した尾高の指摘で注目すべき点として、今後の傾向として、「プロプロがしだいに減り、かわりにコンコンが増えるという傾向が将来も続くであろう」(五七頁)と予測していることです。
その理由として、尾高は次の2つを挙げています。
「第1には、日本の大企業で、とくに組織の合理化や設備の自動化がすすんでいるところでは、従業員の平均学歴は少しずつ高くなり、...高学歴の若年労働者...技能労働者とか...事務職者とかには、コンコンが多くなりやすい」(五七~五八頁)。
「第2の理由としては、高学歴若年者の人たちに限らず、一般に大企業に働く従業員の価値志向は、年代があとになるほど個人主義になり、また同時に多様化するであろうということがあげられる」(五八頁)。
さらに、「企業に働く一般従業員の最近における価値志向の個人主義と多様化の傾向は、かれらの会社および組合に対する帰属意識の高さをともに低下させ、そしてかれらの反会社、組合批判の態度を同時に増大させている」(六一頁)とも指摘しています。
尾高の指摘から、労働組合は組織拡大だけでなく、組合員の組合離れに対処するためにも、労働組合がすべきことは、プロプロ型の育成に力を入れることです。それが、コンコン型の増加を食い止めることになります。

育成すべきプロプロ型とは、どのような人びとなのでしょうか。
それを尾高は、次のように述べています。
「会社と組合は、労働者の意識のなかで同一の方角に存在し、たとえ部分的に対立していても、根本的には両立しうるものとして受けとられている」(六九頁)。このような「二重帰属型の人びとは、いわゆる要領の良いイエス・マンではなく、むしろ勤勉力行型の人びとであることは、すでに指摘した。...一般に、このタイプの人たちの意識の根底にあるものは、人間はまじめに、正直に働くべきものであり、そして働いて得た成果の配分については、あくまでも自分の権利を主張するのが当然だというひとつの気風(エートス)である。言い換えれば、一面では『よい従業員』として経営者に協力して働くが、しかし他面では『よい組合員』として、経営者と争っても働く者の権利を守るというのが、自分たちの当然の、また正しい生き方であると、かれらは感じているのである。二重帰属型の人びとに熱心なユニオニストが多い理由も、ここから理解されるであろう」(七三頁)。

では、労働組合としてどうすれば良いのか...。残念ながら、そこまで尾高は、具体的に述べてはいません。
しかし、選集に収録されたその後の論文を読み進めていくと、プロプロ型育成の取り組みとして尾高が推奨しているのは「企業経営の民主化」と「自律作業小集団による自主管理活動」であると推察されます。
それはどのような内容のものなのかは、次号(11月号)で述べたいと思います。

参考文献
・尾高邦雄(1995)『尾高邦雄選集 第4巻』『尾高邦雄選集 第5巻』夢窓庵
・中村圭介(2009)『壁を壊す』(社)教育文化協会

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