2019.11.01
労働界で忘れ去られた貴重な研究(下)―尾高邦雄の「二重帰属意識」論―

私たちは、尾高の労使双方への次のメッセージに、真摯に耳を傾けるべきでしょう。
「もし労使関係の安定化を望むならば、会社側はプロコン・タイプの人びと(会社一辺倒型)を育成すべきでない。むしろ、このタイプの人びとに正しい組合観を教え、近代社会における労働組合の機能と存在理由を理解させて、かれらがプロプロ・タイプ(会社と組合に共に帰属意識の高い型)に転ずるように指導すべきなのである」(第4巻 七七~七八頁)。
「もし建設的な労使関係の慣行をつくろうとするならば、組合の指導部はコンプロ・タイプ(組合一辺倒型)の育成を心掛けるべきではない。そうではなく、このタイプの人びとがひとりでも多くプロプロ・タイプに転じうるように、会社に対して政策の転換や方針の改善を迫るべきなのである」(第4巻 七八頁)。
さらに、労使双方の指導者層がすべきこととして、次のようにも述べています。
今日増加傾向にあるコンコン型(会社と組合に共に批判型)に対して、「第一には、これらの人びとが何ゆえ会社の政策と組合の方針にたいして不満をもち批判的であるのかの原因を突きとめて、それを取り除くことであり、そして、第二に、これらの不平不満型がよく働く従業員であると同時に熱心な組合員であることができるような客観的条件―労働条件の向上、職場における福祉の充実、人間疎外の解消、労働者経営参加の促進、組合の民主化など―をととのえることである」(第4巻 八二頁)。

経営民主化の要点を、尾高は次のように指摘しています。
「企業経営の民主化を本当に実施しようとすれば、小手先のテクニックや訓練や、いわゆるインフォ―マルな人間関係の改善にだけ努力していたのではだめである。......このためにはフォーマルな組織や制度の改革が必要であり、第一線管理者からトップ・マネジメントにいたる管理者層全体の再教育が必要であり、本格的な従業員世論調査と、これにもとづくフィードバック(職場討議と集団提案)が必要である」(第4巻 一三六~一三七頁)。
さらに、「労働者の経営参加には、......従業員代表を通じてのトップレベルの政策決定への間接参加もしくは代表参加と、従業員自身による職場レベルの運営と管理への直接参加とがある。......労使協議制は前者を実現する主要な方法であり、企業末端の職場で作られる従業員の小集団による自主管理制度は後者を実現する代表的な方法である。
このふたつの形態は、労働者による経営参加制度の相互補完的なふたつの側面であり、それぞれ相手によって補足されねばならぬ限界を持っている。それゆえ、この制度のいずれか一方だけが実現したのでは、経営参加制度の実現としては十分とはいえない」(第5巻 二〇九頁)、としています。

そして、「職場レベルの直接参加活動の重点は、与えられた業務のプロセスとその成果を、職場の労働者たちがかれら自身の責任のもとに直接管理するということにある」(第5巻 二一七頁)ことや、「労働者自主管理とは、職場の労働者が経営者側に協力して、与えられた課題をよりよく達成するための新しい働き方である。......その業務遂行の方法や段取りの変更や決定にあたっても、......経営者や管理者と協議して、かれらの同意を得たうえで自主的に決める」(第5巻 二一八頁)、という自律作業小集団と呼べる職場への転換を推奨します。

さらに、「本格的な自主管理体制の場合には、......与えられたタスクのこなし方や具体的なそれの達成計画を、各小集団自ら自主的に決め、それをこれから各小集団自身の管理と責任のもとに自治的に達成していくのである」(第5巻 二二三頁)としています。
併せて、「リーダーはかならずグループメンバーのなかから互選あるいは推薦によって自由に選ばれなければならない。この選出結果について当該小集団から届け出がありしだい、会社によって公式に任命され、リーダーとしてのかれの権限や職責も、会社によってフォーマルに認められることが必要である」(第5巻 二二九~二三〇頁)としています。

尾高は、自主管理活動がそこに働く従業員たちにもたらす効果として次の5点
をあげています。
1. この制度下で働くことによって、労働者の仕事に対する働きがいと責任感が増大される
2.職場におけるかれらの人間疎外と欲求不満が軽減される
3.かれらの個性・能力の発揮が可能となり、人間としての成長の可能性も増大される
4.仕事と職場に対するかれらの一体感が強まり、会社に対するかれらの帰属意識も高まる
5.以上を要約すれば、この制度のもとでは、労働者のモラールは高まり、かれらの職場には持続的な活気の横溢が見られるようになる(第5巻 二四九~二五〇頁)

以上の尾高の指摘に、プロプロ型育成のために、労働組合がなにをするべきか、読者の皆さん方には、見えてきたことと思います。

参考文献
・ 尾高邦雄(1995)『尾高邦雄選集 第4巻』
『尾高邦雄選集 第5巻』夢窓庵

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