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2019.12.21
温暖化と自然災害と損害賠償

 2019年10月、関東地方を襲った台風15号は、とくに千葉県に大きな被害をもたらした。過去の災害ではなかなか気がつかなかったいくつかの問題をもたらした。
 予想をはるかに超える電柱の損害による大規模かつ長期の停電に加えて、ゴルフ練習場の鉄柵による近隣住居の損害賠償をめぐる騒ぎは法律上の責任と、個人の被害による生活困難さとのせめぎあいみたいな様相を呈した。

 2017年の当コラム122号でもふれたが、自然災害による他者への損害については、安全対策などを施していれば、よほどの過失がなければ賠償責任はない。
この過失責任と賠償責任の考え方は、1600年代のイギリスの名誉革命によって確立された理念であり、今もその理念に基づいている考え方なのである。
今日の近代的な市民社会といわれる社会は、学校の社会科で習ったようにイギリスの「名誉革命」によって生まれる。1688年~1689年、イングランド王位をめぐってクーデターが起こり、時の王・ジェームス2世は1688年12月11日、亡命に走ったものの捕えられた。しかし、処刑して同情が集まるのを恐れた新権力者により、フランスへの亡命が認められた。このようにイングランドでの革命は無血で成し遂げられたために、無血革命、あるいは名誉革命といわれている。
こうして封建制度から革命(イギリスの無血革命・名誉革命)によって近代市民社会が生まれたが、誕生した市民社会は三つの原則から成り立っている。一つは、「財産権の尊重」、二つは、「契約自由の原則」、三つに、「過失責任の原則」である。
まさに本号で取り上げている「過失責任の原則」に関する根本理念は、この革命によって確立されたのである。

 その考え方は、「人は何人も故意、または重大な過失がなければ、そのことによって発生した損害についての賠償責任は負わない」というもので、自然災害や火災などについて200年近くを経た今でも有効に機能しているのである。

 もっとも、確立された当時には、すべての出来事に適用されていた。だから、労働災害にも適用されていたため、労働災害が発生したときに、使用者側の故意や重大な過失が証明されなければ責任はないということになり、災害を受けた労働者は泣き寝入りを強いられていた。当然のように労働組合や多くの市民から批判され、やがて使用者責任の在り方が見直され、法律により労働災害に対する保障義務が課されることになる。これが、現在の労災補償法の原型になる。

 こうして一般的な過失には賠償責任を認めるかたわら、自然災害と火災については「人は何人も故意、または重大な過失がなければ、そのことによって発生した損害についての賠償責任は負わない」という考え方は今も脈々と受け継がれている。

民法第709条はいう。
「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」

 これが民法上の一般的な損害賠償を定めている条文であるが、一方で特別法により責任の軽減が定められている。
失火の責任に関する法律で、「民法第709条の規定は、失火の場合には之を適用せず。但し失火者に重大なる過失ありたるときは此の限に在らず」と規定している。この規定により、失火の場合は故意または重大な過失がない限り不法行為責任は負わないでよいとされる。木造家屋の多い日本では、失火による不法行為責任が過大になりやすいことを考慮した立法となっている。
火災による損害は自らの家屋にも発生して多大な財政負担を負い、他者への賠償を負わせるのは負担が大きすぎるという趣旨からであろう。

 これは自然災害にも適用されるから、前述したゴルフ練習場の鉄柵による家屋への損害賠償も同様に考えられる。そうした一方で、火災にしろ、自然災害にしろ、損害賠償義務はないにしても道義的な責任はあると思える。ゴルフ練習場の鉄柵による被害の場合、持ち主が法律的な賠償責任論を争わず(考えられる安全対策を施していたか、否か)、土地を売却して賠償に充てると発表しているのも、道義的責任として正しい選択と言えるし、賢明な判断と歓迎されている。

 労働組合のリーダーはこうした状況を敷衍して考え、当然のように組合員にその被害が発生した場合に備えて、全労済の火災共済の重要性を再徹底していかなければならない。

 労働組合運動は、その発祥をイギリスの名誉革命時にさかのぼる。当時の労働者が使用者の身勝手な経営に多大な被害を受けて困窮した生活を続ける中、同じ労働者が助け合うためにカンパなどに代表される共済事業に力を注いだのが、労働組合の誕生へと結びついたといわれる。  労働者が共済運動に取り組んでいる中で、労働組合の結成へとつながっていくのは自然の流れでもあったのである。労働組合活動の原点が共済事業にあるといわれるゆえんである。

 組合員のみならず、多くの国民を巻き込んで助け合わない団体は労働組合でも何でもない。

 そうすると、労働組合活動として第一義に労働条件の改善などの経済活動に特化する一方で、共済など社会的事業への取り組みは欠かせない運動であることが分かる。労働組合が共済事業として全労済活動に熱心に取り組む理由はこの点にある。

 火災や自然災害の被害を受けたときに、賠償で役に立つのは共済事業しかないのである。多数の労働者のスケールメリットを生かす共済事業は、全労済に代表される。

 自然災害が多発する日本、温暖化の影響か、今後も過去の災害の規模をはるかに超える被害が予想される日本を考えたとき、組合運動の原点としての共済事業の意義を再認識し、組合員への呼びかけが強く求められる時代になったのである。

 こうした重大災害は温暖化によるところが多いといわれる中、かねてから温暖化に懐疑的な発言を繰り返してきたアメリカのトランプ大統領は、12月4日、地球温暖化対策の国際ルールであるパリ協定から離脱すると国連に通告した。これから手続きに入り、1年後に協定から去ることになる。

 アメリカは世界2位の温室効果ガス排出国である。その国が協定から抜けるとは身勝手が過ぎるとの批判が噴出している。

 離脱の理由について「パリ協定の下では米国の労働者や企業、納税者に不公平な重荷が課されるからだ」(ポンペオ国務長官)という趣旨の説明をした。

 発展途上国は、今後の自国の経済成長を図るために消極的だが、歴史的にみても19世紀半ば以降、人間の活動で出たCO2の実に4分の1が米国からで、ほかのどの国をも上回っている。

 うがった見方かもしれないが、CO2を一番排出する元凶といわれる石油関連業界は一様に温暖化に懐疑的で、トランプ大統領に様々な圧力をかけているともいわれる。

 その一方で、アメリカの州政府や大企業の間では、連邦政府の姿勢に関わりなく先進的な取り組みが広がっているとも言う。

 トランプ大統領へのお追従が目立つ安倍政権も何らかの対応をしなければならなかったが、早速、小泉環境相が「おそらくトランプ大統領に翻意を促しても不可能だと思う」と述べた。

 今のアメリカは、経済への影響が少しでもあれば、すべて「アメリカ第一主義」を掲げて温暖化を否定してみせる。幸いにも世界各国には米国に追随する動きは出ていない。というよりはむしろ呆れているのかもしれない。

 パリ協定の努力目標は産業革命以降の気温上昇を1.5度未満に抑えることにあるが、現状では2030年代にも1.5度を超えてしまうと懸念されている。

 大げさにいえば、凶暴化する自然災害を目の当たりにしている日本として、このアメリカの離脱騒動に「おそらくトランプ大統領に翻意を促しても不可能だと思う」だけですましてはならないだろう。

 ではどうすればいいのか。また来年も過去に例を見ない被害をもたらす台風や大雨に恐れおののいていなければならないのだろうか。労働組合なら、あらゆる国際会議で温暖化の行く末に警鐘を鳴らし続け、遅々たる歩みであっても諦めることなく前進を図る努力を続けなければならない。

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