j.union株式会社

労働組合の活動を
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2020.04.01
労働組合活動のドメインを変えなければ(中)

労働界で、下記図表の領域Aに該当する組合員一人ひとりが組合活動に関与する機会も場も提供されてこなかったのは、ある意味当然でありました。
それは、そもそも労働者個々人では経営(資本)と対等にならない、と考えることが前提にあったからです。

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だから、労働者の代表としての労働組合が必要である。労使関係を集団的に確立してこそ対等性が確保される、という考え方が労働経済学の常識だったからです。領域Aに労働組合が位置づけられることはなく、対象外になっていたのは当然でもあります。
また、これまで労使関係論と言えば、企業と労働組合との集団的労使関係に関するものとして扱われてきました。したがって個別的労使関係での組合活動など、研究の対象になることはありませんでした。

しかし、昨今のグローバル経済下の企業では、領域Aでの上司と部下との個別的労使関係において、賃金や処遇、さらには日々の仕事のPDCAサイクルが決められており、その内容も年々広がり、深まってきています。
このような傾向を示す言葉として、今日の経営学の世界では、「労務管理」とか「人事労務管理」と表現することが少なくなり「人的資源管理」と呼ばれるようになっています。
「人的資源管理」が広がっていった背景について、日本労働研究機構報告書(2002)は、次のように述べています。
「アメリカでは、多くの未組織企業で非組織化維持政策として人的資源管理戦略を採用し、熟練度ベースの賃金制度や精巧な労使コミュニケーション手段、苦情処理制度の導入によって従業員に組合結成の動機を与えないようにしている。......労働条件のよい企業や従業員とのコミュニケーション施策の充実した企業では、組合が結成されにくいと推論される。今日の企業が採用する人的資源管理そのものが、労働組合の組織化や加入を必要としないもの、すなわち組織率の低下をもたらすものとなっている」(10頁)。
人的資源管理戦略が労働組合の組織率低下や組合員の組合離れをもたらしている現実を指摘しています。

そればかりか、この領域Aにおける上司と部下との関係において、メンタル問題やハラスメント問題が多発しています。
厚生労働省は「平成30年度個別労働紛争解決制度の施行状況」として、総合労働相談件数は111万7,983件で、11年連続で100万件を超え高止まり、「いじめ・嫌がらせ」に関する民事上の個別労働紛争の相談件数が過去最高、と公表しています。
この問題に企業別組合は傍観し、無策だったのでしょうか。そんなことはありません。取り組んでいました。
しかし、防げないのはなぜなのでしょうか。この問題の解決は、集団的労使関係だけでの対処では不可能であることを示しています。メンタル問題やハラスメント問題の解決は、個別的労使関係において、個々人にまで分権された労使交渉・協議が行われ、それを労働組合がサポートするといった対応がされないと、どこの会社でも看過してしまったり、埋没してしまったりする課題である、とみるべきでしょう。

換言するならば、領域Aにおける人的資源管理に対抗できる、個別的労使関係での分権的な組合活動のあり方や取り組みが開発されること。労働法的にもそれが認められ保障されていること。個人交渉・協議の理論やスキルによる組合員・労働者の武装化を労働組合が推し進めることが求められている、ということです。
併せて、昔風に述べるならば組合役員(できれば、200人に1人は会社経費による専従・半専従化)の育成によって、労働者一人ひとりへの世話役・相談役・苦情処理の取り組み(今日風に言うならば、リスニングやコーチング活動)、個別的労使関係で発生する問題を解決するワークショップ(コンサルティング活動)が必要とされています。
このような必要性から私は従業員代表法制が必要だと考えています。この役割を、労働組合のある企業では組合役員が担うことで、より機能することになる、と考えています。
そして、現場では春闘の取り組みよりも、日々これらの取り組みが重視され、エネルギーも時間も資金も配分される組合活動が求められます。
当然ですが、領域Aでの新たな組合活動として「被考課者訓練」は必須となります。
このことを強調する理由は、日本の労働者はこの個別的労使関係での労働力の取引および査定を「よし」とする、世界的に珍しい特質を持っているからです。
それは次号で述べることにします。

参考文献
・日本労働研究機構報告書(2002)『労働組合の結成と経営危機等への対応―90年代後半の労使関係』調査研究報告書 No.150

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