2020.05.21
コロナ禍に見えたリーダーの在り様

 人類の歴史は感染症との闘いの歴史でもある。それほどに歴史的にも多くの感染症を経験してきた。感染症とは、何らかの病原体が宿主といわれる生物に寄生して発生する病気の総称であるが、病原体には寄生虫から細菌、ウイルスなど様々な種類があり、宿主も植物、動物、人間など多岐にわたる。だから細菌やウイルスが人間に寄生した歴史が感染症の歴史ということになる。

 では細菌とウイルスとはどう違うのか。それは大きさで、細菌は1メートルの100万分の1のマイクロメーターの単位で表され、ウイルスはその100分の1以下の大きさになる。細菌は光学顕微鏡で見られるが、ウイルスは電子顕微鏡を使わないと観察できない。

 もっとも古い感染症は天然痘と言われ、紀元前のエジプトのミイラからその痕跡がみられるという。日本では735年(天平7年)、筑紫(今の北部九州)で発生した天然痘が東方に広がり、多くの死者を出しながら、その後も周期的に流行してきた。15世紀にはコロンブスのアメリカ上陸によりアメリカでも大流行したが、世界初のワクチンが作られて根絶したとされ、1980年にWHOが世界根絶宣言を出し人類が根絶した唯一の感染症となった。
こうして人類はいくつもの感染症を経験して今回の「新型コロナウイルス」の流行になる。過去何回も感染症を経験してきた人類が、なぜ新しい感染症を蔓延させてしまうのか。

 感染症は地球上に人間を含む生物が出現し進化を続ける歴史と共にある。切っても切れない宿命の関係でもあるのだ。土地の開発、環境破壊、都市化・工業化を含むこれらの環境変化によって、感染症は今後も生まれるといわれる。ワクチンの開発などがない限り、ウイルスは根絶することはできないということだ。それが10年周期なのかどうかはわからないが、人間は慢心することなく、感染病と共に生きていかなければならないということだろう。

 今回の新型コロナの戦いにおいて、人間の慢心とおごり、深刻さを忘れてはならないという教訓をまざまざと見せつけた。

 その代表例が日本、アメリカ、ブラジルのリーダーたちの発言だ。アメリカのトランプ大統領の発言を追ってみると、
①2月26日に15人の国内感染が判明したことを受けて、トランプ氏は記者会見で、「感染事例はこれから大幅に減る。上昇はない」と断じた。
②同27日には「何ら心配ない。ウイルスはある日突然、奇跡のように消えてなくなる」。
そして③3月6日には「私は(ウイルス学を)理解できている。皆、私の知識に驚いている。医者が私になぜそれほど詳しいのですかと聞くんだ。天性かもしれない」。

 ブラジルのボルソナロ大統領は、
①ラジオ・トゥピ(Radio Tupi)とのインタビューで、「人々はまるで世界の終わりのように振る舞っている」「経済はうまく回っているのに、何人かの州知事はそれを台無しにするような措置を取っている。まるでここに人がいないかのようだ。必要なのは、こうしたヒステリーを抑えることだ」と述べた。
そして②17日、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)をめぐる一部の州の予防措置を非難し、「ヒステリー」だと発言した。

 次にわが日本の安倍首相はといえば、
①【朝日新聞の首相動静によると、最初の感染者が出た1月15日以降、安倍首相は3月8日までに計35回もの会食や懇親会をこなした。
「国民に不要不急の外出を控えるよう求めた2月16日以降の約3週間で安倍首相は8回、会食に出かけました。安倍首相がひいきにする超高級ホテル・グランドハイアット東京内にある中国料理店『CHINAROOM』や、東京・六本木の京料理、鉄板焼き『花郷』といった高級店が並びます」】(全国紙政治部記者)。
【野党から「民間企業は飲み会を自粛している。首相の危機管理のなさが国民を不安にしている」と批判の声が上がるが、安倍首相は「いわゆる宴会をやっているわけではなく、さまざまなかたと意見交換を行っている」と反論し、どこ吹く風だ。】
②一方で、【国のコロナ対策の司令塔の役割を担う新型コロナウイルス感染症対策本部への出席時間は驚くほど短い。「安倍首相が対策本部に出席するのは10~20分ほどで、全国の小中高校に休校を要請した2月27日の出席時間はわずか10分でした。国民に外出を控えろと言いつつ、自らは情報交換を名目にグルメ三昧で、対策本部にはわずかな時間しか顔を見せません」】(前出・全国紙政治部記者)

 三ヵ国のトップリーダーの発言と行動は、三者三様であるが、共通しているのはいずれも自身へのおごりが見えることだ。
 とくに日本は、37.5度以上の体温が4日間以上続かなければPCR検査を受けられない基準を設け(のちに厚労省は「基準ではなかった。誤解された」と発言)、感染者の把握を二の次にするなど、明らかに初動で重大なミスを犯してしまった。そのうえ、日本経済の命綱を外国人観光客と、カジノ賭博の導入にかけてきたアベノミクスが破綻に追い込まれた。

 一般的にいって、社会的災厄が起きた時に人間は普段見せない行動をとってしまう歴史を持つ。今回の感染症騒動も比類なき偏見と差別を産んでいる。


 新聞の片隅にも、小売店の店員が、「コロナよりも人間が怖い」と語る記事が載る。自分の思い通りにならないと感じた顧客が、店員をなじる様子を伝える。

 イスラエルの著名な歴史学者のハラリ氏はこういう。
【「我々にとって最大の敵はウイルスではない。敵は心の中にある悪魔です。憎しみ、強欲さ、無知。この悪魔に心を乗っ取られると、人々は互いを憎み合い、感染をめぐって外国人や少数者を非難し始める。これを機に金もうけを狙うビジネスがはびこり、無知によってばかげた陰謀論を信じるようになる。これらが最大の危険です」
 「我々はそれを防ぐことができます。この危機のさなか、憎しみより連帯を示すのです。強欲に金もうけをするのではなく、寛大に人を助ける。陰謀論を信じ込むのではなく、科学や責任あるメディアへの信頼を高める。それが実現できれば、危機を乗り越えられるだけでなく、その後の世界をよりよいものにすることができるでしょう。我々はいま、その分岐点の手前に立っているのです】


 偏見と差別の最たるものは医療従事者へのものだろう。私たちの健康と命を守るために奮闘している医療従事者への中傷が止まらないらしい。一方で市民による感謝のメッセージが各地で伝えられている。一筋の光明だ。

 こうした中、国のリーダーの姿勢が問われる。【安倍晋三首相が、新型コロナウイルスから「自らの身を守る行動を」と警戒を呼びかけた翌日、昭恵夫人が大分に旅行し、約50人の団体とともに大分県宇佐市の「宇佐神宮」に参拝していたことが、「週刊文春」の取材でわかった。昭恵夫人は、同行者に「コロナで予定が全部なくなっちゃったので、どこかへ行こうと思っていたんです」と語っていたという。】(4月15日「文春オンライン」)

 トップリーダー夫人のこうした行動に対し、【安倍晋三首相は17日の衆院厚生労働委員会で、新型コロナウイルス感染拡大に関し、(中略)妻昭恵氏が大分県宇佐市の宇佐神宮を参拝したと週刊誌に報道されたことについて「神社の参拝は密閉ではない。3密が重なったらダメだと申し上げている」と問題はないとの認識を示した。また、事前に昭恵氏から訪問の意向を告げられていたとも明かした。】(4月17日「毎日新聞」)

 「3密」でなければ問題ないという安倍首相の姿勢は、のちに海岸でサーフィンに興じる人々に、格好の理由を与えてしまったのである。「海は『3密』ではない」という理由を......。

 リーダー論でよくいわれる「率先垂範」は全く見当たらない。
こうして今までの流れを振り返ってみると、日本は政府による初動の致命的なミスを、国民の協力(パチンコ店に通う一部を除いてだが、これは同時にギャンブル依存の恐ろしさをまざまざと見せつけた。この上にカジノ賭博が存在していたらと思うと恐ろしい限りだ)、自粛によって助けられたといえる。

 本校執筆中の5月10日現在、コロナ禍は収束の出口が見えていないが、みんなの努力で一日も早い終息を願ってやまない。

 さて次のウイルスの襲撃はいつになるのだろうか。その時にも日本の医療が改善されていなければ、おそらく十分な医療を受けられる人と、受けられない人が明確になると思われる。それはすなわち、死んでもやむを得ない人と生き続けてもらう人とを選択することを迫られることなのである。

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