2020.06.21
命の選択が迫られるのか次の感染症

 コロナ対策の優等生はどこの国だったのか。そして日本の対応はどうであったのか。その比較をしながら、いつか来るであろう次の感染症の流行にどう対処すればいいのか、少し早いかもしれないが今から考えておこうと思う(6月10日現在)。これは決して杞憂のことではなく、歴史的に見ても感染症に必ず襲われるのは人類史上の宿命でもあるからである。

 人間はさまざまな経験を繰り返していくが、経験のたびに何らかの教訓を得て次の経験に備える。今回のコロナ危機にあたって、各国がこれまでの経験を生かしてどのように対策を立てていたのか、それによってコロナ危機への対応が異なっている。

 コロナウイルス感染拡大への対応が他の国々と比べればうまくいっていると評価されているのが、台湾、韓国、ドイツというのが大方の評価のようである。

 みずほ証券の上野泰也氏によれば、台湾の取り組みで特筆すべきものとして、2016年に財務委員(大臣)に起用された天才と称されるホワイトハッカーのオードリー・タン(唐鳳)が挙げられている。(注・ホワイトハッカー=コンピュータやネットワークに関する高度や知識や技術を持つ者を指す呼び名である「ハッカー」のうち、特にその技術を善良な目的に活かす者のこと。出典:IT用語辞典バイナリ)
氏は「マスクの在庫データを管理するアプリを活用し、どの店にどのくらいの在庫があるのかを市民が常に把握できるようにした。そのうえで、2月には政府がマスクを全部買い上げて流通を管理する制度を導入した。」

 そのほかにも、水際対策はもちろん入国者の隔離を徹底、医療用マスクの計画的増産も図ったという。それにつけても最も驚いたのが状況把握であった。中国・武漢市のコロナ感染拡大にいち早く気付き昨年12月31日には、世界保健機関(WHO)に情報を伝えて警戒を呼び掛けるとともに、武漢からの入境者への検疫を開始しているのである。

 まだまだある。同氏の記事をさらに引用しよう。

【原因不明の肺炎患者の確認を武漢市が発表したのは同じ12月31日だが、台湾でも緊張感はまだ広がっていなかった時期だという。年明け5日には原因不明の肺炎に関する専門家会議を開催し、20日にはこの問題で指揮センターを設置。21日に初の感染者が台湾で確認されると、翌22日に蔡総統は全力での防疫を国家安全会議で指示した(3月14日付読売新聞)。また、1月下旬には台湾全土のマスク工場に予算を投じて生産ライン増設に着手し、人員の不足に対しては軍人も動員。1月時点で1日に製造できるマスクは188万枚だったが、現在ではその7倍にあたる1300万枚の製造能力があり、近く1500万枚まで増えるという(5月25日現在)。蔡総統は4月1日、感染拡大が深刻な欧米や外交関係がある国に、医薬品や医療技術を提供するとともに、マスク計1000万枚を寄贈すると表明した。その背景には上記のマスク計画増産の成功がある。蔡総統の支持率は大きく上昇した。】

 次に韓国を見てみよう。

 韓国の感染者の増加ペースは当初はかなり高かったが3月中旬から鈍化して非常事態を脱した(5月10日現在)。具体的な施策で国際的にも大きく取り上げられたのが、ウイルス検査の「ドライブスルー方式」、「ウオーキングスルー方式」で、日本で頻発した医療現場での感染防止に功を奏した。またエレベーターのボタン部分に貼る透明な「抗菌フィルター」なども効果を上げているといわれる。

 コロナウイルスは中国での発症から欧州、米国と猛威をふるった。
【中国に次ぐ新型コロナ危機の第2の震源地・欧州では、今なおウイルスの拡大が止まらない。そうした中でドイツが死亡率を低く抑えている背景には、同国のウイルス学の専門家たちが、未知のコロナウイルスによるパンデミックを想定したリスク分析を8年前に公表し、政府や議会に警鐘を鳴らしていた事実がある。】(「日経ビジネスオンライン」熊谷徹 4月21日)

 その分析は8年前ということになるのだが、それを真剣に受け止めて対策を準備していた結果、ドイツの「パンデミック対策」は他国に比べて整っていたという。【たとえばドイツには今年3月初めの時点で、人工呼吸器付きの集中治療室(ICU)が2万5000床あった。これは欧州で最も多い。ドイツの人口10万人当たりのICUベッド数は29.2床で、イタリア(12.5床)やスペイン(9.7床)を大きく上回っている(日本集中治療学会によると、日本は5床)。】
またドイツでは当初から1日5~6万件のPCR検査を行う態勢を持っていた。日本とは異なり、検査数を増やすことによって感染者と濃厚接触者を迅速に隔離する戦略だという。

 では日本の8年前はどうだったのか。10年前の2010年6月に厚生労働省の有識者会議から報告書が出された。それには、「とりわけ、地方衛生研究所のPCRを含めた検査体制などについて強化するとともに、地方衛生研究所の法的位置づけについて検討が必要である」とある。

 日本では10年前にPCR検査の強化が提言されていたにもかかわらず、何らの対策が打たれないまま今日を迎えてしまったのである。

 もう一つ目についたのは、コロナ危機にあたって最も成功している国が女性リーダーの国であるという記事だ。【ワシントンポスト紙には、「コロナ禍のさなか、『理性の声』と称えられる世界の女性リーダーたち」という見出しが躍った。このパンデミックで最善の結果を出している国を見ると、女性がトップにいる国ばかりであることはたしかだ。そして、最高の決断力と冷静さを見せているリーダーたちも、やはり女性だ。アーダーン首相率いるニュージーランドは、ウイルス封じ込め対策の最前線に立ってきた。アーダーンは大胆な方針を採り、感染を抑制するだけでなく、新型コロナウイルスを一掃する戦略に出た。きわめて迅速に国境を閉じ、最初の感染者が確認されてからいち早くロックダウン(都市封鎖)に踏み切ったリーダーのひとりになった。ニュージーランドの1日あたりの感染者増加率は1%未満と推定されている。メルケル首相率いるドイツも迅速に対応し、欧州諸国ではいち早く検査を拡大した。ドイツでは現在、欧州初の新型コロナウイルス感染症抗体検査が広くおこなわれ、検査数は1日あたり12万件と見積られている。蔡英文総統がトップに立ち、疫学者の陳建仁副総統が脇をかためる台湾は、他のほとんどの国のように日常生活を大きく損なうことなく、感染拡大を食い止めるのに成功した。台湾政府はすばやく移動制限に踏み切り、健康状態をチェックする体制を整えた。フレデリクセン首相率いるデンマークは、欧州の国としてはいち早く国境を閉鎖し、早い段階でロックダウンに踏み切った。また、危機のさなかに国の経済を支えるために必要な経済政策も実施している。迅速な行動は実を結んだ。】(「Fordes JAPAN」5月12日)

 さらにこうしたリーダーにはある共通点があると指摘している。
【この巨大な危機からうまく国を守るためには、ひとりの人間の力以上のものが必要になる。戦略的な対策を効果的にとれるかどうかは、指導者が、公衆衛生専門家や科学者の言葉に進んで耳を傾け、必要に応じて断固とした措置をとれるかどうかにかかっている。そうしたアプローチは、理論のうえでは必要性が明らかでも、実践するのはとても難しい。そして、ここで紹介した指導者たちは、 その独特な横断的スキルを持つという点で共通している。(中略)
アーダーンやフレデリクセンのような指導者を見ると、危機のときの強さとは、自分がこの分野の専門家ではないと認め、専門知識を持つ人の言葉に耳を傾けられる能力であることがわかる。そして、たとえ正しい方向だという確信がなくても、専門的なエビデンス(証拠)にもとづいて行動するのをおそれない勇気も必要だ。そうした方針で国を率いるためには、独特なスタイルのリーダーシップが必要になる。弱さと断固とした強さを併せ持ち、共感的であると同時にタフでもあるリーダーシップだ。(後略)】(同)

 私たちは今回のコロナ禍の歴史に学び、次の感染症の出現に今から準備していかなければならない。その際に最も懸念されることは、医療体制の在り方だ。私たちは政府・経済界の効率化ばかりに目を奪われ、国民を守る医療などをおろそかにしてきた弊害を目の当たりにした。例えば【保健所の統廃合が全国で進み設置数は同年の847カ所から、2020年には469カ所と4割強減った。】(「時事通信」5月20日)

 さらに多数の患者を収容しきれない医療現場であれば、おのずから入院・治療の対象者を選別することになる。入院できる患者とできない患者が選別される。医療を受けられない人が生まれてしまうのだ。何もしなければ次の感染症の流行時には国民の意思にかかわりなく命の選択が始まるのだ。

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