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2020.07.01
労働協約(契約)締結するだけでは意味がない―個別的労使関係での分権的組合活動の必要性

先月号で「個別的労使関係での分権的な組合活動」とは、「職場自律集団」の形成とその実践のことです、と述べました。
今月号では、さらに「職場自律集団」の形成とその実践(集団活動)の必要性について、踏み込んだ話をしたいと思います。

これまでの労働組合(活動)論では、労使関係において集団的労使関係の確立が絶対に必要である、と言われてきました。私もそれを認めるところです。
しかし、その集団的労使関係で作り出す成果(労働組合活動の成果)である労働協約(契約)は、ある意味欠陥だらけなのです。労働協約(契約)が欠陥品とは言い過ぎだ、とおっしゃるならば、無いよりは絶対にあった方がよいとは思いますが、あれば安心・大丈夫というものではありません、と言い換えましょう。
私は、組合役員時代の経験から、どんなに労働協約(契約)を締結しても、その内容通りに運用されるとは限らないことを、嫌というほど実感してきました。労働協約(契約)が現場(職場)では守られないのです。
そこで、集団的労使関係に基づく集権的な労働協約(契約)締結型の組合活動を「ハード環境整備型」と呼び、それだけをしていればよいわけではない、その内容が守られ維持される個別的労使関係での分権的な「ソフト環境整備型」の組合活動の必要性を強調してきました。

これらの事柄を、服部(2013)は、「日本企業の雇用度が心理的契約によって支えられてきた」(服部2013:七頁)と表現しています。
服部は、調査に基づいて「日本企業において契約の不履行が頻繁に起こっている」(服部2013:九二頁)と指摘しています。「日本企業の従業員は、キャリア、配置、業績評価、そして就業時間といったいくつかの点において、企業が契約不履行を行っていると考えている」(服部2013:一五五頁)としています。
さらに服部は、日本企業において、心理的契約の不履行が発生している理由を二つあげています。一つは、契約不履行の理由を外部要因に帰属しやすい状況が発生していること。もう一つは、日本企業にとって、心理的契約、とりわけ書かれざる約束を順守するインセンティブが低くなっている、というものです。
心理的契約とは、佐藤(2011)によれば、自分は組織に対してどう関わるのか、という個々人と組織の間で形成された相互期待に関する信念の体系と説明しています。
そして、心理的契約が「重要なのは、心理的契約が違反されたと認知されると個人は動機づけとコミットメントを失い、組織の目標達成も困難になることである。そこで個人と組織双方の相互期待実現のために、心理的契約の絶えざる変更を行う必要がでてくる」(佐藤2011:一三~一四頁)と指摘します。
このような指摘は、労働法学において説明される労働契約の「不完備契約」説と重なるものです。
山垣(2010)は不完備契約を、企業特殊熟練の度合いなどを取り上げ、企業固有の問題だけに裁判所のような第三者によって正しく検証するのが難しく(unverifiable)、その技能を習得しているのに認めないとか、不況時に雇用保障の約束を破って解雇してしまったり、と約束を反故にしてしまうリスクの高い行為がなされることを例に挙げて、説明しています。

私は、労働者は個別的労使関係において、集団的労使関係で決まる労働協約(契約)ではカバーしきれない領域、明文化されないまま形成・維持されている「心理的契約」「不完備契約」を抱えている、という解釈に立つものです。
このように、個別的労使関係での分権的組合活動とは、「心理的契約」「不完備契約」の締結と履行のことだ、と言い換えれば、今日誰もが、働くうえでいちばん関心の高い事柄、サービス残業や長時間労働、ハラスメントおよびメンタル問題が生み出されているのは、個別的労使関係が対等なうえで交渉されていないからだ、ということができるのです。
だから、職場自律集団において、各職場に応じた個別的労使関係での分権的組合活動が展開されて、「心理的契約」「不完備契約」の締結・更新と履行状況が、日常的に注視される必要がある、と主張するに至るのです。
春闘という集団的労使関係での集権的組合活動をどんなに頑張っても、個別的労使関係での分権的組合活動が展開されていなければ意味がありません。ましてや、コロナ・ショックでもはや春闘が機能しなくなった(3度目の「春闘の終焉」がいわれている)ならばなおさらのことです。

参考文献
佐藤厚(2011)『キャリア社会学序説』泉文堂
服部泰宏(2013)『日本企業の心理的契約―組織と従業員の見えざる約束<増補改訂版>』白桃書房
山垣真浩(2010)『解雇規制の必要性―Authority Relationの見地から』
鈴木玲編 『新自由主義と労働』御茶の水書房

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