j.union株式会社

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2021.01.01
個別的労使関係における分権的組合活動の重要性の発見(上)

「被評価者セミナー」は組合員の「組合満足度」を高める

昨年11月にA労働組合(組合員数約22,000名)にお願いして、同労組が会社の賃金・人事制度の改革に対応して、2003年度より先駆的に進めている、組合加入2年目の組合員全員に実施している「被評価者セミナー<目標管理・人事考課 傾向と対策>」(延べ参加者:1万弱)が、その後職場にどのような変化をもたらしているのかを探るべく、組合員10人に1名の割合で選出されている職場委員1998名にWebアンケートさせていただきました。有効回答数は1664名(83.3%)でした。

同アンケート調査から、「『被評価者セミナー』は組合員の『組合満足度』を高める」ことが発見(立証)されました。今月はそのことについて述べたいと思います。

これまで「被評価者セミナー」については、セミナー実施後の参加者自身の満足度や自身への役立ち度で評価を得られることを、セミナー後のアンケート結果から述べることはできましたが、「被評価者セミナー」が組合に対する満足度を高めることについては、直接立証できていませんでした。受講者の労働組合に対する評価(満足度)を高めているかどうかは、これまでは感覚的・間接的に判断する以外ありませんでした。

当該労組の「被評価者セミナー」でも、開始当初、2003年度アンケート(有効回答数594人)においては、「『被評価者セミナー』が役立ったかどうか」を尋ねていました。回答は、「とても役に立った」が26.8%、「役に立った」が61.6%と高い値を示し、かつ「役に立ったと思う意見・要望等」の内、「きっかけになった(気付き)」と記述した人が208人、「知らなかった、勉強になった」が159人、「理解が深まった」が48人と、効果が示されていました。2004年度でもほぼ同じアンケート結果となっていました。

その後のセミナー直後実施のアンケートにおいては、「被評価者セミナー」に対する理解度を尋ねるものに変わりましたが、その理解度(「よく理解できた」+「まあまあ理解できた」加算したもの)も毎年90%を超えていることと、自由記述における肯定的なコメント等から、「被評価者セミナー」が、受講者から高い評価を受けているものの、労働組合に対する評価(満足度)を高めているかどうかは、直接確認できるものではありませんでした。

そこで、今回のアンケート調査では、「被評価者セミナー」受講の有無と、会社及び労働組合に対する満足度を100点満点で尋ねる設問を取り入れました。これによって、「被評価者セミナー」受講の有無による組合満足度(100点満点)の値の違いから、「被評価者セミナー」が労働組合に対する満足度を高めることに貢献しているかどうかを検証することができます。

結論は、「『被評価者セミナー』は組合の満足度を高める」というものになりました。その論拠は次の通りです。
「組合満足度の100点満点」と「二重帰属度(会社満足度+組合満足度=200点満点の合成変数」」の2つ平均値の差は次の通りでした。


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【下記平均値(太字)は「組合満足度」のもの】
受講の有無  度数  平均値  標準偏差  平均値の標準誤差
はい     548  68.4653  19.22570  0.82128
いいえ    412  64.0558  19.92222  0.98150
【下記平均値(太字)は「二重帰属度」のもの】
受講の有無  度数  平均値   標準偏差  平均値の標準誤差
はい     548  141.3394  30.02689  1.28269
いいえ    412  135.7330  31.93457  1.57330
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問題は、「組合満足度」も「二重帰属度」も共に「はい」の平均値は「いいえ」の平均値より高いのですが、この違い(差)に意味があるかどうかです。
このような場合に、違い(差)が有意かどうかを検定する統計学的方法が「t検定」です。そこで、その「t検定」を行ってみました。その結果、次の通りのデータが表示(データ列の一部割愛)されました。


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【組合満足度】  F値   有意確率  t値   有意確率(両側)
等分散を仮定する 1.581   0.209   3.463  0.001
【二重帰属度】  F値   有意確率  t値   有意確率(両側)
等分散を仮定する 1.454   0.228   2.786  0.005
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検定データの見方は、前半の「F値 有意確率」は「等分散性のためのLeveneの検定」で、「等分散を仮定する」か「等分散を仮定しない」かを見るもので、「有意確率」が5%(0.05)以上なので等分散であると判断したもので、したがって「等分散を仮定する」の行に示されたデータを見て判断することを示しています(「等分散を仮定しない」のデータは省略)。
そして後半の「t値   有意確率(両側)」が「組合満足度」と「二重帰属度」の2つの平均値の差の検定を示すものです。いずれも有意確率(両側)=危険率が0.001と0.005と、5%(0.05)以下なので、有意であることわかります。

以上の結果から、個別的労使関係の改善をめざす「被評価者セミナー」の取り組みは、労働組合に対する満足度を高めることが明らかとなりました。

なお参考までに、A労働組合で実施された「被評価者セミナー」は、「目標面接のプロフェッショナルになろう―どうしたら目標管理・人事考課制度の公正性を確保し、納得性が高められるか」と題されて講義されるものです。
講義の趣旨は、これまで評価が経営の専管事項とされていた壁を越えるチャンスとしてとらえ、ブラックボックスであった評価にどのように参画するのか、評価情報の公開性をどのように実現するのか、そして、人事評価制度に客観性・透明性・納得性・公正性もたらすための戦術を目標管理制度の期首から期末の過程でどのように駆使するのか、それらの方法を被評価者である組合員に講義するものです。
また、成果主義型の目標管理・人事考課制度とは、ある意味、個別の労使交渉・協議の機会でもあり、仕事の進め方にも口を挟めるものであり、そのことによって上司をマネジメントする力が発揮でき、これまで労働者は弱いとされてきた個別的労使関係を労使対等にしていける制度へと変えられる、というものです。

さらに、昨今増幅するストレスとは「要求の高さ×見通しの立たなさ×支援のなさ」 であると定義されるものであるから、要求の高低は環境の違いで判断は分かれるものの、見通しを立てることと、上司等から支援をとりつけるための面談にする工夫によって、目標管理制度はストレス・マネジメントにもなりうるものであることが述べられるものです。
もちろん、人事考課制度は単なる能力査定だけではなく、賃金管理上の情報収集―適正な賃金と昇給のための公正な処遇や、配置管理の人事情報の収集―適正な人配置と昇進・昇格のための適材適所を実現するためのものであることや、能力開発・教育訓練上の情報収集―求められる能力と保有能力のギャップから能力開発・教育訓練ニーズを探るための人材育成を実現させる制度であることも付け加えられています。

以上の「被評価者セミナー」の講義の趣旨から、A労働組合で実施されている「被評価者セミナー」が、労働組合に対する満足度を高めるだけでなく、組合員の個別労使関係の改善や会社満足度を高めることにも貢献していることは言うまでもないでしょう。

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