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2021.01.21
コロナ禍における2021年春闘、労働組合はどう取り組むべきか

経営者が利益を上げるためにどうするのか。自らの経営能力を縦横に駆使して会社の発展を図る。問題はその図り方である。企業の収益改善のために最も簡単なのは、コストの中に占める人件費の削減を図ることである。なぜならば、経営者自身の経営能力の至らなさを補うのに努力もせずに最も簡単にコストの削減を図ることができるからである。

自分の経営施策の失敗を人件費の削減で補えればこんな簡単なことはない。自らの失敗を覆い隠せる。社内外からの批判もかわせる。

しかし当たり前のことだが、労働者は家族全員の生計を一手に担う人間であり、簡単にコスト削減の対象にしたりするものではないということである。

では、現在の経済システムにおいて労働者はどのように位置づけられているのだろうか。

資本をもとにした現代の資本主義経済システムは、その発祥を遠く1600年代のイギリスの名誉革命にさかのぼる。詳細は省くが、名誉革命はそれまでの支配者である王侯・貴族に代わって、市民が主体となる社会である。社会の主体者になって市民は、同時に財産権も尊重される。資本家が誕生したのである。資本家は、資本力を駆使して工場を建て、材料を蓄え、人を採用して事業を営む。こうして資本主義のシステムは構築される。

こうなると問題になるのは、いつの時代もそうだが従業員の働かせ方である。封建時代から変わったばかりということもあり、労働者は過酷な職場環境、劣悪な労働条件で働かなければならなかった。幼児の労働も当たり前だし、女性の深夜・徹夜労働も当たり前。1700年代の産業革命時には、社内も社会も貧困を原因とする混乱のさなかにあった。

その解決に労働組合や議会が立ち上がり、法律による規制が始まる。労働法の誕生である。

労働法の変遷については別の機会に譲るとして、この時期労働者の人間としての尊厳を尊重する概念も確立される。「最低賃金制度」の確立である。

最低賃金制度、その概念は言わずもがなだが「従業員は人間である」ことにある。会社が事業の運営を行うには不可欠な生産要素がある。生産会社でいえば、資本を投じて工場を建て、材料を購入し、従業員が働いて生産活動を行い製品を作り上げる。

これらの生産要素の中で、従業員だけが他の要素と本質的な違いを持っている。工場や材料と違い、従業員が人間であることである。なぜなら、工場や材料は在庫がきくが、人間は在庫できないし、「生き」ていかなければならない。つまり生活することができて初めて従業員として働くことができるのという点だ。

経営者が事業を行うためには従業員が絶対に必要である。そうすると従業員を雇う以上は、従業員の生活に責任を持たなければならないことになる。そこで社会は進歩の証しとして従業員の生活を保障する制度を確立する。それが「最低賃金制度」なのだ。

従業員が生きていくための最低限の賃金を保障する制度、最低賃金制度はこうして生まれた。それが社会全体の合意になり、賃金水準も経営者の一方的な意思で決めるのではなく、労働者の代表、経営者の代表、そして労使の利害調整役を期待して学識経験者の代表の三者で構成する委員会で決めることになっている。

ここで労使には気を付けなければならいことがある。

労働組合は労働者の生活向上や地位の向上を図ることを目的にしているので、当然のように最低賃金は高い水準を望む。一方経営者側は日本全体の事業者の総意として低い水準を望む。この相対立する主張はそれぞれに問題点をはらむ。労働組合の方でいえば、「高ければすべてよし」とはならない。とくに中小企業にとって高すぎる水準は企業経営を危うくしがちだ。最悪の場合は企業倒産さえ起こしかねない。失業者の増大は最も避けなければならない。

反対に「低ければよし」とする経営側の主張にも問題がある。低い賃金水準は労働者の社会的地位を貶め経済の停滞を招くし、従業員のモラルにも悪影響を与える。

この対立する主張の中で合意を図るためには時間が必要になる。最低賃金は日本全体に適用されるから、新聞紙上をにぎわすように話し合いは徹夜に及ぶことも多い。

このように、企業が日本で経営する以上は、最低賃金を守らなければならない。最低賃金を守れない企業は、日本で経営することはできないし、守れなければ倒産も止む無しという理念に裏付けされている。

最低賃金制度はあくまで生活できる最低限の賃金水準であり、労働組合は当然のように、生活水準の向上を目指して賃上げ闘争を組織し、各産業、企業の実情に応じて賃金水準を確保してきた。その結果が今の賃金であり、「人間らしい生活」を実現し、「人間の尊厳」を確立するための努力の成果でもある。それだけに、各産業間、企業間には賃金水準の違いが生まれ、それが格差をつくってきた。

近年はさらに各社の成果主義の導入などで賃金体系が大きく変化し、一律的な賃上げ闘争が難しくなった。それだけに、何をもって全体の交渉を進めていくのか、リーダーの選択が重要になっている。

もう一つ忘れてならないのが格差である。今や日本は「格差社会」といわれるように、格差が深刻な問題になっている。とくに労働者の間で進む格差として、正規・非正規間の問題がある。処遇のみならず労働者として最も避けなければならない雇用不安は猶予がない。全労働者に占める非正規社員の比率は4割を超え、コロナ禍では業績不振を理由にした解雇が横行している。

正規社員の間では自分たちとは無縁のことと無関心感が漂っているが、「自分には関係ない」と思う気持ちが労働者間の連帯を損ない、社会的な不安を増大させている。

雇用面での問題は一朝一夕には解決できない側面を持っているが、少なくとも同一社内における処遇の格差改善は緊急を要する。

連合はナショナルセンターレベルで取り扱う地域別最低賃金にもっと力を注ぐべきであり、その上に産業別組織の努力によって産業別最低賃金を確立する。企業別組合は産業別最低賃金の上に企業内の年齢別最低賃金を設ける。こうして国、産業、企業の中に、「これ以下では働かせない」水準、それは正規社員のみならず非正規社員にも適用されるものであり、処遇面における格差の改善に決定的な役割を果たす。

労働組合にとっては、地域別の最低賃金、その上に産業別の最低賃金が設けられる。

企業に余力があるのなら年齢別最低賃金を確立した上に、全従業員を対象にした賃金の引き上げ要求も当然といえるが、組合員には平均的な賃上げよりも最低賃金が重要であることを理解してもらう努力が必要である。

その意味で、金属労協(JC)の21年春闘の方針原案を見てみると、「JCミニマム運動」を提唱しており、「企業内最低賃金の締結」に取り組むことで、「非正規雇用を含めた協定の締結」を目指すなど、心強い方針が示されている。

さらに、この方針では年齢別最低賃金にはふれていないが、別立てで「35歳の水準をJCミニマム」として水準を明記して取り組むことにしている。各組合に対して、この水準を下回っている場合、「これ以下をなくすような取り組み」を求めている。

コロナ禍で繰り返される非正規社員の雇用不安、正規・非正規の処遇格差の中で取り組まれる2021年春闘は、格差改善を主眼とする最低賃金の意義を考える春闘であることを教えている。

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