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2022.05.01
令和版「労働組合の意義と機能」―2021.12.6開催j.unionフォーラム発言要旨 その5

先月のコラムで述べた、日本的経営の「能力主義管理」と「経営参加」に、適合する日本の労働者の行動様式は、これまで多くの労働問題研究者たちから、日本の労働組合運動の問題点(弱点)とされてきました。


その代表的示唆として、大河内(1970)では、「日本の労働組合は、とかく教科書風に描き出されるような近代的な大衆組織であるよりも、むしろ日本に固有な人間関係や社会風土の中で生み出されたものであり、その点がまた、日本の労働組合の特徴でもあり脆弱さでもあった」(p.ⅰ)と述べています。


兵藤(1982)では、1950年代の鉄鋼産業の第1次設備合理化で着手された「職分制度」の導入が、職場運営協議会の廃止によって職場レベルでの組合規制が後退してきている情況のもとで、現場管理者により成績査定をテコに従業員を個々的に掌握しうる体制を強めていこうとするもの(p.230)として、さらには、1950年代末の鉄鋼産業の第2次設備合理化に伴って導入された「作業長制度」や、1960年代の鉄鋼産業の第3次設備合理化での職分制度にかわる新しい人事制度としての「職掌制度 」および「職能給制度」が、能力主義管理を通じて競争社会としての企業社会を構築しようとするもの(pp.242-243)であったと、否定的に解釈されてきました。


さらに、河西(1989)では、「日本の基幹産業の企業別組合は、賃金問題、雇用問題、労働時間短縮問題など、労働条件の改善のために、有能な機能はほとんど発揮していない。さらには、これにくわえて、企業別組合が、企業の労務管理の補完物とさえなっている。またさらには組合内民主主義においても欠けるところが大きい」(p.66)と、ほぼ全否定されてしまいます。


以上の大河内(1970)、兵藤(1982)、河西(1989)の指摘こそ、労使関係論に占める集団的労使関係に呪縛された代表的見解を示すもので、労使関係論の中に個別的労使関係が取り上げられなかった理由といってよいでしょう。
遠藤(1999)は、この点について、「従業員間の処遇格差が民間企業内に存在し、査定制度が重要な役割を果たしていること、これを労働組合が規制しないこと」(p.12)の「最も重要な理由は、査定制度を研究する理論枠組みを労使関係論が欠落させていたにもかからず、...それをはっきりと自覚せず、労使関係論から脱却できなかった」(p.13-14)としています。


話を本筋に戻すと、「地位改善」要求とは、経営のパートナーとしての地位を認めてもらいたい、との要求であり、その認定は、個別的労使関係と職場で処遇が決まるものであり、管理者を含む職場の共同体性の確認要求なのです。ここに、日本企業組織の原点であるメンバーシップ型雇用の本質があるもので、欧米のジョブ型雇用が生み出す"奴らと俺たち"(ポール・ウィリス[1996])とは違う価値観なのです。


これまで1月号から4月号にて述べてきた、大学院5年間の研究活動の3つの結論―
1990年代以降の成果主義の賃金・人事制度(目標管理・人事考課制度)が導入されたことで、賃金、処遇、仕事の進め方・仕方が個別労使交渉・協議事項に(領域Aにおける決定)なった
②現代は集団的労使関係だけでは労働組合の必要性を語れない
③日本的経営は「能力主義管理」と「経営参加」


―から、労働組合の創成期から個別的労使関係が日本の労働者の一番の課題であること、令和の時代の労使関係は、成果主義型の賃金・人事制度への改革に対抗できる個別労使交渉・協議力と職場の自主管理(民主化)力を高めること、すなわち、組合員一人一人から職場集団までの領域において、自律・当事者型の分権的組合活動にあることをご理解いただけたものと思います。


そして、令和の時代の労働組合の意義と機能を考えるにあたり、現状における労働組合の課題をあげるならば、次の6点が差し迫っている課題としてあげられるでしょう。
①組織率の低下(非正規労働者を組合員にするモチベーションが働かない)
②テレワークの時代は業績管理(考課)がさらに拡大
③キャリア自律の大合唱によるエンプロイアビリティー能力の自己責任化
④格差拡大(雇用の多様化と流動化)⇒メンバーシップ型雇用のネガティブキャンペーンとともに、ジョブ型雇用とは似て非なる「限定社員」を作り出し、12制度(正社員と非正規社員)から13制度(無限定正社員と限定正社員と非正規社員)へとさらに移行させ、平均賃金水準のさらなる低下
⑤フリーランス・ギグワークという新手の低賃金個人事業者の増大
⑥組合員の組合離れ(組合役員のなり手の無さ)


参考文献
大河内一男(1970)『暗い谷間の労働運動―大正・昭和(戦前)』岩波新書
遠藤公嗣(1999)『日本の人事査定』ミネルヴァ書房
河西宏祐(1989)『企業別組合の理論もうひとつの日本的労使関係』日本評論社
兵藤ツトム(1982)「職場の労使関係と労働組合」『戦後労働組合運動史論』日本評論社
ポール・ウィリス(1996)『ハマータウンの野郎ども学校への反抗・労働への順応 』熊沢 誠・山田 潤訳、ちくま学芸文庫

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