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2022.05.21
戦争はこうして始まる

今年の5月3日、憲法記念日の新聞に意見広告が掲載された(引用は「読売新聞」)。タイトルは「改憲させない、私たちは非戦を選ぶ」。この意見広告によると、全国から寄せられた賛同数は11,127件に及んだという。


意見は次に記す5項目にまとめてある。
・ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を許さない
・二度と核兵器を使ってはならない
・「有事不安」を軍拡に利用するな
・「戦争できる国」にさせない
・参院選で非戦の意思を示そう


意見広告が警鐘を鳴らしているのは思い過ごしではないようだ。日本の政界には憂うべき発言が垣間見える。例えば、安倍元首相はこんな発言をしている。
【日米では、普段から米国の核兵器を日本に配備しておき、有事には日本が核を使えるよう、米国が協力するというものだ。安倍氏は27日のフジテレビの番組で、橋下徹・元大阪市長の質問に答え、「日本はNPT(核不拡散条約)加盟国で非核三原則があるが、世界の安全がどう守られているかという現実についての議論をタブー視してはならない」と述べた。「国民の命、国をどうすれば守れるかについては、様々な選択肢を視野に議論すべきだ」とも語った。】


この発言は、「日本の防衛のためには普段から日本の領土にアメリカの核兵器を置き、場合によっては日本の爆撃機などに核兵器を搭載し使えるような体制を作っておくこと」で、アメリカの核抑止力を日本とアメリカで共有するという「核の共有政策」を検討しようというものである。
唯一の被爆国として、核の保有に対する抵抗が強いことを念頭に、それでも何とか核保有への抜け道を探った結果かもしれないが、こうした巧妙な動きに対して、国民が騙されてはならない。
歴史的に見ても、人類史上、戦争に無縁な時代は見当たらない。いつの時代も、何らかの理由をつけて争いを始める。原始時代の争いは体力勝負であった。次は棒や銃器など道具を使って争う。そしてついには、争う手段はエネルギーの勝負へと進む。エネルギーの勝負とは核兵器の勝負ということだ。
ロシアによるウクライナ侵攻は国際社会の囂々(ごうごう)たる非難をよそに、プーチン大統領は「場合によって核兵器の使用も考慮する」発言で世の人々を驚かせた。
日本とロシアの指導者による核兵器に関する驚くべき発言は何を意味するのだろうか。


【ドーン! 重低音の爆発音が絶え間なく響く。(中略) 2月27日までの10日間に住民580人以上が死亡した。朝日新聞の取材に応じた40歳代の男性は、爆撃を避けて地下で避難生活を送る。「地下の避難所には、水も食料も換気口もトイレもない。終わることのない爆発音に、みんなおびえている。まるで大きな墓の中にいるみたいだ」取材は2月25~28日、スマートフォンの通信アプリを使って、音声メッセージでやりとりした。男性は爆撃の合間に電波の届く地上に出て、送受信した。
最後のメッセージで、男性はこう訴えた。「住民が無差別に爆撃され、家を失い、子どもが飢え死にしている。あなたたちはなぜ黙っているのか。自分の身に置き換えてほしい。あなたたちの沈黙が私たちを殺している」】(「朝日新聞デジタル」2018年3月1日)


この記事は、ウクライナの悲劇の場面ではない。2018年のシリアでの出来事なのだ。両者は随分と似通っているが、同時に記事のタイトルは、「あなたたちの沈黙が私たちを殺す」とある。
世界のどこかで戦争が行われているとき、当事国でない国民は「見て見ぬふり」をしていてよいのだろうか。そうした素朴な疑問に答える風を装い、持論の憲法改正・再軍備・敵基地攻撃論を繰り返す政治家の声が大きくなってきた。
社会の出来事に声を上げないことが、時として社会の歯車がとんでもない方向へ向かってしまうこともある。
現に、自民党では「専守防衛」の名称変更や解釈を変更すべきだとの意見が出始め、一気に「敵基地への攻撃能力を持つべき」との方向への検討が行われるようだ。


【自民党の安全保障調査会(会長・小野寺五典元防衛相)は11日の会合で、憲法9条に基づく日本の防衛姿勢である「専守防衛」について議論し、名称や解釈を変更すべきだとの意見が上がった。敵基地攻撃能力の保有についても議論され、名称案などについて意見交換した。自民は政府が年末をめどに進める国家安全保障戦略(NSS)などの改定に向け、4月末までに提言をまとめ、岸田文雄首相に提出する。
専守防衛は、相手から武力攻撃を受けたときに初めて防衛力を行使する受動的な防衛姿勢を指す。その行使の態様や保持する防衛力については「自衛のための必要最小限」とされる。
一方、政府は敵基地攻撃能力の保有について、自衛権の範囲内との見解を示している。だが、相手が攻撃する前に相手領域内にあるミサイル拠点などを攻撃する場合、専守防衛の考え方と矛盾しないかとの議論が国会などでなされてきた。
11日の会合には関係議員の他、中谷元、岩屋毅、浜田靖一各元防衛相らが参加した。近年は中国やロシア、北朝鮮など近隣国が日米のミサイル防衛突破を狙った極超音速ミサイルを開発し、専守防衛を堅持してきた日本周辺の安保環境が厳しさを増していることから、相手に攻撃を断念させるために抑止力強化が必要だとの見解で一致した。その上で「専守防衛」について、「『必要最小限』では抑止力にならず国民を守れない」とする主張や、自衛のための攻撃も含めた「積極防衛」との名称変更案が出たという。】(「産経新聞」4月12日)


さらにこれにとどまらず、「敵基地攻撃」の「敵基地」には基地に止(とど)まらず、「敵の中枢まで攻撃すべきだ」という、明らかに戦争を始める意思を示した意見さえ出ているのである。
日本政府が「敵が攻撃に着手したと認定」すれば攻撃が可能というものだが、その見極めを間違いなく行えるのか。もし相手が「攻撃に着手した」という判断を間違えたら、「先制攻撃」したことになる。先制攻撃は国際法で禁じられている。ロシアと同じ過ちを繰り返すことになるのだ。


案の定、【安倍元総理大臣は地元・山口で講演し、政府が保有の是非を検討する敵基地攻撃能力について、基地に限定せず中枢攻撃も含むべき、との持論を強調しました。
安倍元総理大臣「今、敵基地攻撃能力ということが言われています。打撃力、私は打撃力と言ってきたんですが、基地に限定をする必要はないわけです。向こうの中枢を攻撃するということも含むべきなんだろう、こう思ってます」
安倍氏はそのうえで「日本が守りを専門にして打撃力をアメリカに任せる構図は大きく変えないとしても、日本も少しは独自の打撃力を持つべきだと完全に確信している」と主張しました。
また、ロシアによるウクライナ侵攻や中国の軍事力の増強を背景に、防衛費を拡充する必要性を強調し、2023年度は当初予算で6兆円程度(2022年度は約5兆3687億円)確保することを訴えました。】(「テレ朝news」4月4日)


以前にも紹介したが、ドイツのルター派牧師であり、反ナチ運動組織告白協会の指導者マルティン・ニーメラーの言葉に由来するといわれる詩はこう言う。

【ナチスが最初共産主義者を攻撃したとき、私は声をあげなかった。
 私は共産主義者ではなかったから。
 社会民主主義者が牢獄に入れられたとき、私は声をあげなかった。
 私は社会民主主義者ではなかったから。
 彼らが労働組合員たちを攻撃したとき、私は声をあげなかった。
 私は労働組合員ではなかったから。
 そして、彼らが私を攻撃したとき 私のために声をあげる者は、誰一人残っていなかった。】


 ロシアのウクライナへの侵攻、敵の中枢への攻撃能力の確保、アメリカとの核の共有、いま日本で起きているこれらのことは夢の世界の出来事ではない。現実に語られ、現実に実現されてしまうかもしれないことなのである。

 

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