j.union株式会社

労働組合の活動を
総合的に支援します。

2023.01.21
企業の命運を握る人財への投資

企業は人なり。
人を大事にしない企業には「NO」を突き付けよ。
かつて企業にとって従業員は「人材」と表現してきた。つまり従業員(人)は企業運営における素材の一つという認識から「人材」と表現し、やがて、従業員は企業にとっては「財産」であるとの認識が芽生え、「人財」と表現する流れが生まれた。
企業経営をする上で、従業員は財産に匹敵する重要な価値を有しているとの考え方が定着していったのである。


では一体、人の重要性が認識されてきたのにはどのような推移があったのだろうか。洋の東西を問わず、この世に資本主義社会が誕生し、人を「雇う側」と「雇われる側」が生まれてから、両者の利害対立は、時には労働者側の不満が爆発し、長期のストライキなどによる社会の不安定さを招いたりすることもあった。原因は、雇う側が「人を人とは思わぬ処遇」をした時に多く見られた。そして、雇う側の理不尽な処遇さえも世間が黙認する時代があったり、あるいは、労使双方の誤解や思い込みがもとで解決が長引き、不安定な社会になった時代もあった。


2012年末、政権に復帰した安倍元首相は「アベノミクス」と称して「大胆な金融政策」、「機動的な財政政策」、「成長戦略」を「三本の矢」として経済再生を目指す政策を掲げた。
それから10年、日本経済はどうなったのか。
2015年1月28日、時の安倍首相は参議院本会議で【現在の我が国においては、長引くデフレからの脱却と経済再生の実現が喫緊の課題であります。我々が目指しているのは、いわゆるトリクルダウンではなく、経済の好循環の実現であり、地方経済の底上げであります。このため、政労使による賃上げの促進などの取組や地方創生などにも取り組んでいるところであります。今後とも、三本の矢の政策を更に前に進めてまいります。】と、こう述べていた。


(ここでいう「トリクルダウン」とは、「滴り落ちる」という意味。経済学では「裕福な人がより裕福になれば、その分、富が貧しい人にも滴り落ちる」という意味を持っている。この考え方を「トリクルダウン理論」として使っているが、この理論は、アメリカの投資家で超富豪のニック・ハノーアーが次のように明確に否定している。
【私たち超富豪は、この私たちがさらに富めば、他の人にも富が浸透するというトリクルダウン経済から脱却する必要があります。トリクルダウン理論は間違いです。そんなはずがないでしょう。私には平均賃金の千倍の収入がありますが、千倍多く買い物したりはしません。そうでしょう?私はこのズボンを2本買いました。パートナーのマイクいわく、「経営者ズボン」私はこれを2千本買えますよ。でも買ってもしょうがないでしょう?(笑)私が床屋に行く回数も、外食する回数も、そう多くはありません。超富豪がいくら富をかき集めたところで、国家規模の経済を動かすことは絶対にできません。それが可能になるのは、中流階級の成長によってのみです。】)「TED」22年8月25日)]


「アベノミクス」を掲げてから10年が過ぎた。日本経済は、円安を背景に企業業績はその恩恵を受けて好業績だが、賃金の伸びは鈍化したままである。つまり「人財」への投資を怠ってきた。企業の生産性も上がらず、岸田政権になっても低成長から抜け出せないでいる。
安倍政権時代も、岸田政権の今も、経済発展に賃上げは欠かせないと発言している。労働側の連合も賃上げを重視し春の賃金引上げ闘争に取り組んできた。それなのになんで賃金は国際的に低位に甘んじているのか。組合が経営側の抑え込まれていたのか。


1人がどれくらい稼げるかを示す指標として労働生産性があるが、これも世界との差が広がっている。【日本生産性本部が12月19日に発表した21年の1人あたりの労働生産性は8万1510ドルとOECD38カ国中29位と1970年以降で最も低い順位になった。12年は20位だったが、この数年でじわりと順位を下げ、18年には韓国にも抜かれた。】
この労働生産性の低迷について、10年代の人的資本投資額(対GDP比)を国際比較したところ、英国が1・58%、ドイツが1・34%、米国が0・99%だったのに対し、日本は0・34%にとどまった。この日本の労働生産性の低さについて、学習院大の宮川努教授は、「日本企業の人材投資の低さに起因している」と指摘している。 【深刻な「人への投資」の伸び悩み。人件費は12年度の197兆円から21年度は207兆円とほぼ横ばい。企業が人件費を抑えた結果、「安い日本」と呼ばれる現象が起きた。
経済協力開発機構(OECD)によると、加盟38カ国の平均賃金が12年から21年に1割伸びたのに対し、日本は3%にとどまる。21年の平均賃金が最も高い米国は17%伸びていた。  賃金も投資も伸び悩んだ結果、この10年間で日本の実質国内総生産(GDP)の伸びは、年平均で0・6%にとどまる。この間、米国は2・1%、中国は6・7%伸びており、その差は広がった。GDPの規模では3位を維持しているが、4位のドイツに迫られている。】(「朝日新聞デジタル」12月29日)


日本経済の停滞の原因はなんなのか。宮川努教授はこう指摘する。
【安倍政権では労働者派遣法が緩和されるなどし、非正社員の割合も35%から一時38%まで高まった。こうした層には研修が施されず、スキルが向上しにくい課題がある。宮川氏は90年代のバブル崩壊や金融危機以降に日本企業が非正社員を増やし、社員への研修など人的投資を減らしたことが、デジタル化に遅れるなど経済成長の停滞につながったと指摘する。
「政府や経営者は日本の人材にあぐらをかいてきた結果、世界標準からかけ離れたガラパゴスになった。その蓄積がいまの日本の停滞を招いている」とした上で、「アベノミクスでは最先端のIT国家を作るなどの成長戦略を打ち出したが、何も実現できなかった」と話す。】(同上)


この10年、人的投資を怠ったツケは大きい。その中で賃上げの実情を見てきた国民の意識からも、労働組合に対する期待は大きくないようだ。政府も、経済団体も、メディアもそろって賃上げの必要性を説いているにもかかわらず、【NHKの世論調査(2023年1月11日)によれば、一般国民の60%余が「賃金は上がらない」と答えている】。
これは当事者の労働組合を信用していないのか、あるいは経営者が「賃上げには応えない」(それに組合も反撃できない)と分析しているのかわからないが、どちらにしても、労働組合の力量が問われていることを意味している。


そんな中、新年にこんな見出し(「ユニクロの大幅賃上げ、狙いは人材獲得 海外事業拡大へ国際水準に」)の記事が目を引いた。
【衣料品店「ユニクロ」を運営するファーストリテイリングが年収を最大で4割引き上げる大幅な賃上げを決めた。思い切った賃上げで人材獲得競争を勝ち抜きたい狙いがある。国内大手でも意欲的な決断が相次ぐが、これから始まる春闘で、物価高を補えるほどの賃上げが広がるかは不透明だ。】(「朝日新聞デジタル」1月11日)


政府が賃金の引き上げの必要性を説き、経団連も「内部留保を見るまでもなく業績が好調な企業業績を背景に賃上げ容認」を述べる。
政府も経済団体も賃上げの必要性を認めているのに、賃上げが実現できなかったとしたら、労働組合の存在自体が問われることになってしまう。加えて、「中小企業はどうなのか」、「男女格差」「正規・非正規」の処遇問題をどうするのか、課題は山積している。手を拱(こまね)いていてはならない。テレビからのこんな声が聞こえてくる。「どうする労働組合」。

« 前回の記事