
アメリカの経済誌「フォーブス」は毎年世界の長者番付を発表している。2022年の番付は同年4月5日に発表された。
1位は、電気自動車(EV)メーカー、テスラのCEOであるイーロン・マスク氏で、資産額は日本円で約26兆9400億円に達している。2位は前年まで4年連続1位だったネット通販アマゾンの創業者ジェフ・ベソス氏(資産額約21兆300億円)が続いている。
お馴染みのマイクロソフトの創業者ビル・ゲイツ氏は4位(15兆8700億円)で、その他にもフェイスブックのマーク・ザッカーバーグ氏、グーグルのラリー・ペイジ氏とセルゲイ・ブリン氏もトップ10に入っている。
自動車産業、情報産業と時代の先端を行く産業を代表する創業者やリーダーたちが、巨額の富を得ているのである。
さて日本人はどうなのだろうか。
世界長者番付に掲載された日本人は前年は48人、今年は8人減って40人になっている。
日本人だけの1位は、ユニクロのファーストリテイリングの会長兼社長である柳井正氏で、資産額は約3兆2100億円だが、世界全体では54位になっている。
日本人の2位は、測定器、画像処理機器、制御・計測機器などを扱うキーエンスの滝崎武光氏、3位はソフトバンクグループの孫正義氏となっている。
日本電産の永守重信氏は5位、楽天の三木谷浩史氏は6位で、何かと話題を提供しているZOZOの創業者、前澤友作氏は今回も番付入りし20位、資産額は約2300億円である。
【フォーブス誌によると株式市場の低迷などにより、億万長者は前年から87人減り、2668人となった。10億ドル(約1230億円)以上の資産を保有している人物が対象。 保有資産の合計は、前年より4000億ドル減り、12兆7000億ドル(約1562兆円)。 初ランクインが236人、女性が327人。 国別では、最も多いのがアメリカで735人。2位は中国(香港とマカオを含む)で607人となっている。日本円は 1$=123円で換算した。】(「MEMORVA」22年4月6日)
こうしてみると日本の金持ちとよばれる人々は、アメリカや中国に比べても少ないものの、それでもやはりその巨額の富の大きさに驚かざるを得ない。
それ以上に私たちに驚きを与えているのはアメリカにおける富豪たちの寄付行為である。アメリカの富豪たちの寄付行為の多さに驚きつつ、一方で日本の金持ちたちが多額の寄付をしているとの声を聴くこともない。アメリカ人は気前が良くて、日本人は欲が深いとは思いたくない。
少し古い資料だが、2016年のアメリカの個人寄付総額は年間で30兆円を超えるといわれ、日本は7700億円余りで、日米差は40倍近い。イギリスの「チャリティー・エイド・ファンデーション」が寄付や人助け、ボランティア活動を数値化した「世界寄付指数(World Giving Index)」を発表しているが、それによれば、日本は残念ながら世界で最下位グループに入っている。日本は寄付後進国とみられているが、それでも東日本大震災があった2011年が「寄付元年」と呼ばれている。多くの人々が、義援金を通して被災地を助けようという機運が生まれ、ある協会の推計では、この年の寄付総額は1兆円を超え、寄付した人は7千万人を超えた。日本の人口1億人の7割近くが寄付をした計算になる。
国民の7割近くが寄付を体験すると、寄付行為に対する躊躇(ためら)いなどがなくなり定着へ一歩を踏み出すことになる。案の定、その後、、寄付の金額も寄付する人の数も震災前に比べて増えているのである。
アメリカとの意識の比較でいえば、(エジプトのカイロアメリカン大学政治学部を卒業した)朝日新聞記者の梶原みずほ氏によれば、アメリカとの意識差は、【国家の歴史的な成り立ちが関係しています。移民たちがお金を出し合って一から病院、学校、教会を建てコミュニティーをつくり上げてきたアメリカでは、共助の精神が根付いています。また大富豪の数が多く、貧富の格差も大きいことが背景にあります。】(「朝日新聞デジタル」2019年12月4日)
共助の精神と、富める者が寄付をして貧しい人を助ける精神こそがアメリカ建国の柱ということだろうか。
アメリカは「寄付大国」とも呼ばれ、自らも環境保護活動家と名乗っている映画俳優のレオナルド・ディカプリオ氏は財団を立ち上げ、1998年以降、1億ドル(日本円で110億円)を50カ国、130以上の団体に寄付している。最近ではアマゾンの森林火災の緊急支援に500万ドル(約5億5千万円)の寄付を表明している。同じハリウッドスターのジョージ・クルーニー氏やアンジェリーナ・ジョリー氏もチャリティー活動で有名である。
【近年では2010年にマイクロソフト創業者ビル・ゲイツさんと、投資家のウォーレン・バフェットさんが『ザ・ギビング・プレッジ(The Giving Pledge)』という運動を始めたことも大きなインパクトがありました。富豪に対し、生前もしくは死後、財産の半分以上を慈善活動に寄付するという誓約を社会に公開することで、寄付を促す活動です。賛同者には映画監督のジョージ・ルーカスさんや、大企業のトップらが名を連ね、19年時点で200人以上にのぼります】(同上)。
こうしたアメリカと日本の寄付行為の差は、収入の多寡(たか)によるもので、日本の社長の年収が低いからという人もいる。
【企業トップの報酬が、日本でも増えてきた。株価や業績と連動する割合が高まり、海外の相場に合わせてつり上げられた面もある。一方で、一般社員の給料は伸び悩み、格差は広がっている。米欧に比べるとまだ低いニッポンの社長の給料は、どうあるべきか。
日本の社長の給料は低すぎる――。工作機械大手、DMG森精機の森雅彦社長(61)の持論だ。上場企業は年間報酬が1億円以上の役員の氏名と金額を公表しなければならないが、このルールをなくし、「多くても少なくても明らかにした方がいい」と言う。
公表されるのをいやがり、報酬を1億円未満にとどめる社長が少なくない、とみるからだ。
かつての自身もそうだった。報酬を9千万円台に抑えていた時期がある。横並びを重んじる日本社会で、目立つのは得策ではなかった。】(「朝日新聞デジタル」1月14日)
日本は寄付行為が少ないとされてきたが、全国民が関心を持っていないというわけではない。日本の若者はSDGs(持続可能な開発目標)などの社会問題に非常に敏感であり、寄付を通して社会貢献したいという思いも強いとみられている。
ただ、はっきりしているのは、一般的な寄付行為ではなく、収入の高い人々の寄付行為はアメリカに比べて人員も少なく、金額も少ないことだ。
日本国内の収入格差が拡大しつつあることを考えれば、金持ちの寄付行為がアメリカに大きく見劣りすることから、日本の金持ちは「成金(なりきん)」と軽蔑されがちであることを、改めて認識しておいたほうがいいのかもしれない。
自分の成功は自分だけの努力と才能か。他者への感謝がない金持ちは、人々の敬意を受けることはない。財力に任せて世間の注目を浴びようとする金持ちも芸能人も評価されることはないだろう。
アメリカの投資家で大富豪として自他ともに見認めているニックハノーハー氏はこう言う。
【皆さんは私をご存じないでしょうが、私は皆さんがあちこちで耳にする上位0.01%の富裕層の一人で、つまり紛れもないプルートクラット (超富豪 政治権力者)です。(中略)私は資本主義やビジネスを大きな視野で捉え、それによって鼻持ちならないほどの利益を得て、皆さんには想像もつかないような生活をしています。複数の住宅、ヨット、自家用機、その他もろもろでも正直に言います。私はズバ抜けて賢くはありません。最も勤勉な人物でもありません。学生時代は平凡でした。技術も全然ありません。プログラムも書けません。まさに私の成功は、出生、境遇、タイミングにおける驚くほどの幸運の結果なのです。(中略)では今日、私が未来をどう見ているか気になりますか?鉄の熊手が見えます。怒りの群衆が手にしているような農具です。なぜなら私たち超富豪は、想像を絶するほどの強欲にまみれて暮らし、99%の一般国民をどんどん引き離しているからです。1980年、アメリカ国民の上位1%は国民所得の8%を占めていました。当時の下位50%が占めていたのは18%です。30年経った現在、上位1%が占めるのは国民所得の20%を越えており、下位50%が占めるのは12~13%です。この傾向が続けば、今後30年のうちに上位1%が占めるのは国民所得の30%を越え、下位50%が占めるのはたったの6%になります。
お分かりでしょう。問題は格差そのものではありません。高度に機能する資本主義下の民主主義において、ある程度の格差は必要です。問題は今日の格差が史上最大であり、日々悪化しているということです。そして、もしこのまま富や力や所得を一握りの超富豪に集中させていたら、 私たちの社会は資本主義下の民主主義から、18世紀のフランスのような新封建主義へ変わってしまいます。それは革命前の農具を持った民衆が反乱した頃のフランスです。】「TED」ニック・ハノーアー 22年8月25日」