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2023.03.01
組合役員がリレーショナル・リーダー役を担う
―「対話」という組合活動が生み出す「強い組織」

今月は、労働組合としての集団力を高める一助となればと願って、組合活動における組合役員のリーダーシップ発揮のあり方を、ケネス・ガーゲン、ロネ・ヒエストゥッド(2015)が述べるところの、「対話が生み出す強い組織」のつくり方から模索したいと思います。


同書の結論は、組織に求められているコミュニケーションとは、「リーダーがメンバーの話を注意深く聞いて、明快に魅力的に話す」というだけのものではない。コミュニケーションは「お互いに意味を作るプロセス」であって、メンバー同士が関わり合いながら効果的に働いていける能力は、「対話」を通じて育成される、としています。
このように、「対話」の成立の条件に、互いに対等な関係であることが求められるものであるとすれば、上下関係(使用従属関係)にある企業組織よりも、元来、横の関係(共助・連帯関係)にある労働組合の方が、「対話」の実現がしやすい組織といえましょう。
そこで、組合活動によって職場内に「対話」を生み出し、企業内労働組合ですから、同時に企業も含めて「強い組織」にしていくことが、1990年代初期のバブル崩壊以降約30年間も、国際競争力の低下、賃金水準の国際的な低位水準に悩む日本企業の再生に不可欠のものと考えてよいでしょう。


また、「対話」を職場内で実現していくには、私たちが使う「言葉」は、「進行中のお互いのやりとり」の中で、「意味」を「取得する」ものである、としていることを理解する必要があります。
そのためには、「意味は、言葉の中にあるわけでも、話し手の心や聞き手の心の中にあるわけでもない。意味は話し手と聞き手の相互作用の結果である」ことから、「人を導くということ(Leading)」の極めて重要な材料は、「調整(という行為)のプロセス」への熟練した「参加」なのである(p.2)、とガーゲン&ヒエストゥッドが述べている文脈を、理解する必要があります。


言い換えると、効果的な「コラボレーション(協働、共同作業)」は「対話のプロセス」から生まれる(p.4)。組織が機能するために欠かせない基本認識(論理と価値観こ)は、対話の中に存在する(p.18)、というのです。そして、世界は、私たちの「関係」によって、今ある形になっている(p.24)、ということの理解です。
そればかりか、「対話がなければ、私たちは理解するための頼れる方法・手段がないということになる」(p.25)とのことですから、上司と部下との関係や、同僚との関係に信頼関係が形成されていない、とあなたが感じているのであれば、そこでは、コミュニケーションをしていたとしても、「対話」がないということになります。


ガーゲン&ヒエストゥッドは、組織(今日の労組や企業)が直面している課題として、下記4点を挙げています。(pp.26-27)
・口にはださないものの意見の相違が存在する。
・合意されたことが組織全体で共有されることはめったにない。
・組織のメンバーが、強固かつ熱烈に合意に達している場合、その組織は、強い抑圧下にある。
・外の世界の考え方と価値観を考慮に入れず、組織活動について外からの敬意を生み出すことができない。


そして、今日、活気ある組織とは、社内と外の世界との両方で継続的な調整が本質となっている組織のことを指す(p.36)として、これからの時代は、これまでのような個人としてのリーダーシップから、リレーショナル・リーディングという概念に置き換えるべきだ(p.41)と主張しています。
「リレーショナル・リーディング」とは、「『関係の中』で『未来』へと関わり合いながら効果的に働いていける人々の能力」(p.41)という意味で使われており、「『リレーショナル・リーディング』とは活動である。個人の特性ではない。意味が誕生し、維持され、そして変容するのは、関係のプロセスの中でのこと」(p.41)であり、「対立や疎外、組織の機能不全をもたらすのは、貧弱な関係のプロセスなのである」(p.42)としています。


さらに、ガーゲン&ヒエストゥッドは、組織に求められているのは、コラボレーション(協働、共同作業)、権限移譲、横の意思決定、情報の共有、ネットワーキング、継続的な学習、評価、感謝、つながりやすさである(p.42)として、そのためには、対話が組織の中心になければならず、対話の質に、組織が生きるか死ぬかがかかっている(p.43)と主張しています。
しかし、「コミュニケーションのやりとり」とは、西洋文化では、形式的には「間主観性」と呼ばれるもので、「お互いの頭の中にあるものを理解すること」(p.48)をいうが、最近の研究が証明しているように、他人の頭の中にあるものを知ることなど、私たちにはできない(p.49)というのです。


つまり、意味は、たった一人の人間の言葉の中にあるわけではない。むしろ、意味というのは共同作業のなかで生み出される。そこに一緒にいる人たちによって作り出されるパターンなのである。相手の行動があって初めて、それに意味がつく(p.50)としています。
だから、部下に対するアドバイスは、部下がアドバイスとして扱われなければアドバイスとは見なされない。この意味で、リーダーシップは共同で達成されるものなのである(p.51)と規定します。この考え方は、チェスター・バーナードによって提唱された「権限受容説」と共通するもので、企業においての上司から部下への命令というのは、上司から部下に対して命令が行われたということで成り立つのではなく、命令を受けた部下がその命令を受容したということで成り立つものである、と共通します。
そのため、ガーゲン&ヒエストゥッドは、「対話」は共同で達成されるもので、リレーショナル・リーダーは、相手が「どんな人生を生きているのか」を自覚する(p.58)ことから始まるものだとしています。


つまり、対話には、リレーショナル・リーダーを必要とし、そのリレーショナル・リーダーとは、これまでの組織においては当然とされていた、リーダー(組合役員または上司)がメンバー(組合員または部下)を、自分の現実や生き方に同調行動させるための「話し手」としてコミュニケーションをとるものではない、というのです。


少々抽象的・概念的な話になってしまいましたが、労働組合を「強い組織」にしていく方法として、組合役員がリレーショナル・リーダー役を担って、それによって生み出される組合員との(組合員間も含む)「対話」が、どのようなものであるべきなのか、ご理解いただけましたでしょうか。


参考文献
ケネス・ガーゲン、ロネ・ヒエストゥッド(2015)『ダイアローグ・マネジメント―対話が生み出す強い組織』ディスカヴァー

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