2019.06.02
【組織運営】「株主資本主義」から「みんなの資本主義」へ

「世界 株主還元 10年で2倍(今年度265兆円 設備投資超えも)」3月21日の日本経済新聞のトップの記事で驚いた。設備投資より株主還元。過剰反応気味の日本企業も、配当と自社株買いの株主還元に躍起である。
その背景には、「企業は株主のものであり、企業の価値は時価総額(株価×発行済み株式数)で測られるべきである」という株主(金融)資本主義思想がある。本論は、『「公益」資本主義(原 丈人氏)』の視座を引用しつつ、反論を試みたい。

日本企業の経常利益は2009年以降上昇し続け、内部留保も2008年以降増額傾向である。(※1)一方、労働分配率は2008年より右肩下がりが止まらない。1955(昭和30)年に始まった生産性三原則の「成果の公正な分配」は有名無実と化し、利益のほとんどは株主に還元されている。しかも、日本株の売買シェアの7割は外国人株主によるものであり、ヘッジファンドやアクティビストなどの短期売買株主(投機家)も多い。
彼らは、企業経営のルールをも変える。コーポレートガバナンスなどの巧みな言葉で、企業内に社外取締役という株主還元の監視役を送り込み、経営陣をストックオプションで飼いならし、国際会計基準という時価会計主義で企業の含み益を丸裸にして配当へと転換させる。短期的には収益にならない研究開発投資には減損会計で撤退を迫る。全てコンプライアンス(法令順守)に則っている。ルールには沿っているが、そこには倫理も思いやりもない、拝金主義の世界。
そのような株主資本主義は、日本企業にとって、働く者にとって本当に幸せなのだろうか。

株式市場は、社会を豊かにするかもしれない起業家に対して投資という形式で、事業資金を仲介する機能を担っていたと思うのだが、現在は、実体経済で成果を上げ長期的に内部に富を蓄積してきた企業から、合法的に投機家に収奪され還流するための略奪市場と化している。
株主(投機家)が株式投資をする際の重要指標がROE(Return On Equity自己資本利益率)である。ROEとは、株主が拠出した自己資本を用いて企業がどれだけの利益を上げたかを表す株主のための投資効率の指標である。筆者は、1年間に100社近くの大企業の中期経営計画書を読むが、多くの企業の経営目標にROEが組み込まれている。従業員への還元目標が明記されている中経を見たことはない。

では、ROEとは何か。「当期純利益(分子)」を「自己資本(分母)」で除した値である。純利益(分子)が上がらない企業は、自己資本(分母)を減らす力学が働く。人件費や研究開発投資を削り、30年働いてくれた従業員つきで工場を売却する。それでも足りなくて、配当や自社株買いで自己資本を減らす。潤沢な現預金や自己資本があるなら別であるが、そんな投機家(ヘッジファンドやアクティビスト)の報酬のために、企業の未来を売ってよいのだろうか。実体経済には全く寄与しないゼロサムゲーム。リアルな「モノづくり」のプラスサムでは決してない。
研究開発機能を喪失した企業は、楽して手っ取り早く儲けられる企業買収でしか成長できない。そんなマネーゲーマーたちのロジックをうのみにし、長い年月をかけて築き上げた日本の技術・技能などの無形・有形資産を喪失させてはならない。

働く者が、新しい資本主義(みんなの資本主義)を考える時代である。国政選挙も近い。我々の国を、そのための政治をどのようにしたいか組合員みんなで話し合うのも悪くない。
自分たちが勤める会社をどのようにしたいか、労使で話し合うことも悪くない。
労働組合ならできる。いや、もう労働組合にしかできない。

※1 財務省公表の法人企業統計による。

服部 恵祐j.union株式会社 取締役副社長

「ご機嫌な職場づくり運動」に夢中です!

« 前回の記事 次回の記事 »