2019.09.08
【働くことの原点】ちょっとcoffee break~伝統の郷土料理~

皆さんには忘れられない思い出の食べ物というのがないだろうか。

高級レストランで食べたメニューでもなく、高級食材を使ったグルメメニューでもない。街角の小さなレストラン、家族で通った食堂、祖父や祖母が作ってくれた食べ物等など。その食べ物は人さまざまだろうが、思い出の味というものはもう一度食べてみたいという衝動を与えてくれる。
それが「うまいか・まずいか」は、人の好みの問題だから他人がどうこう言うのは憚れるものの、何であんなものを食べたいのかわからないということもあるだろう。

私にもそんな思い出の味として記憶に残っている食べ物がいくつかある。
その一つが「五目なんばん漬」という地元の郷土料理である。青唐辛子をベースに、ごぼう・人参・大根・きゅりといった野菜を小さくぶつ切りにし、醤油をベースとした出し汁に漬け込んだ漬物である。ちょっと食べただけでモーレツにしびれる程の青唐辛子の辛さが口全体に広がる。火を噴くほど辛い。カリカリと歯ごたえのあるゴボウやニンジンは、野菜の癖をほんのり残しつつも食感がたまらなくいい。これを炊き立てのごはんに乗せて一緒に食べるとごはんが何杯でも進む。

「南蛮漬け」というと、チキン南蛮、カレー南蛮といったメニューを連想されるだろうが、宮城県以北でいう南蛮漬けはまるっきり違っている。
東北地方では古くから食べられている食品で、醤油ベースか味噌ベースかで種類も異なる。広く知られているのは、仙台の牛タンなどに付け合せとして出される南蛮味噌という郷土料理がある。こちらは味噌をベースに先の食材を漬け込んだもので、実家の近所にあるスーパーなどでも広く販売されている。ところが、私の探し求めていた「五目なんばん漬」は、10数年前を境に店頭から姿を消してしまった。その後、田舎に帰るたびに市内の食品店や農産物販売所など、販売していそうなところをしらみつぶしに探し回ったが見つからなかった。

その幻の「五目なんばん漬」がお盆で帰省した折、立ち寄った農産物販売所で偶然見つけた。地元の食材を使った漬物や惣菜が並べられている棚の片隅に透明なプラスチックパックに入って置かれていた。商品に張られているラベルを見ると「品名:なんばん漬」とある。中身を観察してみると具材の種類や切り方には違いがあったが、直感的にこれだ!と思った。試しに一つ買って食べてみることにした。帰って食べてみると紛れもなく探し続けていた「五目なんばん漬」だった。

郷土料理というのは、地元へ出向かなければなかなか口にすることはできない。流通やインターネットの発達した現在では、似たネーミングの食品が手に入ることもあるが、本場物とは違った「普及版」の味わいになっていることが多い。本場物と比べ、味が濃かったり薄かったり、甘めだったり辛めだったりする。しかも、郷土料理は一子相伝的な職人技の伝承に近い。料理だからレシピらしきものが分かっていても、微妙な火加減だったり、熟成するタイミングであったり、レシピに示すことのできないちょっとした手間が味を大きく左右する。同じ味を再現することはとても難しい。

そういう意味では地元で見つけた「五目なんばん漬」は正真正銘の本場物だった。
店頭に掲示された生産者の紹介写真をみたとき、商品のラベルに張られた名前の生産者を見つけた。70歳は越えているだろうか、とても優しそうなおばーちゃんだった。おばーちゃんの手作り五目なんばん漬かと思いつつ、1パック250円の「なんばん漬」を手にした。

新鮮なナスやキュウリが同じぐらいの値段で並べられているのに比べ、手間ヒマのかかる「なんばん漬」が250円というラベルを眺めていると、なんとも申し訳ない気持ちが湧いてくる。
「これで儲かるのかなぁ」そう家内につぶやくと「儲かる儲からないじゃない。手作りだから数も限られるだろうし、だいたい10パック売ったって2500円じゃない。儲けようと思ったら、おばーちゃん農家なんだから、新鮮な野菜を畑から採ってきて売った方がいいはず」確かに言うとおりである。

「わざわざこうやって売っているんだから、誰かに自分の作ったものが食べてもらえて、おいしいって思ってもらえることが生き甲斐なんじゃない。このおばーちゃんの自慢なんだよ」「ラベルに連絡先が載っているんだから、おいしかったって手紙でも出してみたら」農家出身の家内にはおばーちゃんの気持ちが良くわかるらしい。

確かに、利益だけを目的に販売しているのであれば、儲かるような商売には思えない。
昔から地元に伝わっている味を他の人にも味わってもらいたい。そういう気持ちが手間のかかる「なんばん漬」を作るおばーちゃんの原動力になっているのだろう。相手に喜んでもらえたり、ありがとうって言ってもらえたり、そういうことがお金には代えがたい「働くことの原点」にあるような気がする。

いま、農産物販売所や道の駅というのはどこも大人気である。都市近郊や交通量の多いところだけかと思っらそんなことはない。帰省先のここ八戸市近郊でも大賑わいである。
消費者側からの人気理由は採りたての新鮮な野菜が手に入るからだという。生産者にとっては、消費者とつながることのできる拠点であり、生産者同士もそこへ商品を提供することで新たなつながりができる。消費者と生産者、そして企画、販売、運営者など関りを持つすべての人が集まり、つながりを持つ拠点となっている。

ネット社会が当たり前になったいま、バーチャルなつながりがコミュニケーションの基盤として定着している。この先10年、100年たてば、リアルにつながることはあまり意味がなくなるのだろうか。「なんであんな非効率なことしていたんだろうと」
しかし、人と人がつながるバーチャルな場が増えたとしても、リアルな場がなくなってしまうことがないように願う筆者である。

細越 徹夫j.union株式会社 技術支援グループ

人と人とのつながり・めぐり合せを大切にしたい。
青森県出身、1962年生まれ。皆さんよろしく!

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