j.union株式会社

労働組合の活動を
総合的に支援します。

2021.10.03
今こそ「家族的経営」の幻想から目覚めるとき

サントリーホールディングスの新浪剛史社長の発言した『45歳定年説』が波紋を広げている。

9月9日に開かれた経済同友会のオンラインセミナーにて発言されたものだ。

新陳代謝と称して雇用の流動化を意図的に起こし、それによって経済の活性化を図るべしという「新浪発言」。

これに対する意見としては、
「労働者にとっての不利益変更で受け入れられない」
「労働者の働く権利を侵害しかねない」
「経済の不安定化につながる」
「やるならばセーフティネットの構築とセットでなければ不可能だ」
と、批判的なものが多く、どれもまっとうな意見だと感じた。

しかし私はこの一連の騒動に対し、「45歳定年説」という手法に対する巧拙の議論に終止してしまって良いのだろうかと疑問を持っている。
というのも、私は新浪氏の発言の背景に「家族的経営から脱却してしまいたい」という、穏やかならざる思惑を感じ取ったからだ。

「家族的経営」という不文律の綻び

「家族的経営」とは、経営者と従業員が親と子に例えられるような関係性を結ぶ事を意味する。

経営者は従業員の生活を保障する長期雇用と賃金を約束する。
その代わりに、従業員は「あの仕事は嫌だ」「あの土地には行きたくない」などと「子どものようなわがまま」をいわず、経営者のために奉仕を提供することが期待される、という不文律の関係だ。

かつて、この「家族的経営」には経済合理性があった。

従業員は「親」の命令に従い、ひとつの仕事で経験を積み熟練することが所得の保障と向上につながることを理解していた。
経営者も、終身雇用を約束して長い目で「子」の成長を待つことが会社の存続を確かなものにすることを理解していた。

しかし、グローバル競争が激化し、より多くを生産することよりも、より質の高い生産が求められる時代に入った。
生産に求められる技能は目まぐるしく変化し続け、従業員は日々チャレンジと学習を求められている。
経験が生きる分野は徐々に減り、分野によっては若い人材のほうが最新の技術に精通しているという逆転現象もみられる。
つまり、「家族的経営」は企業経営にメリットをもたらさなくなってきているのだ。

経営者のむき出しの本音

「会社は事業目的の実現を第一と考えるものであり、そこに集まる人々は、その実現を可能にする能力を持つ人材の集合として、常に最適化されるべきである。雇用契約はそれを意図して交わされるものであって、事業目的が必要としない契約は解除できることが望ましい」

このような思考回路は、企業の存続と発展を至上命題とする企業経営者にとって極めて「正常」といえる。

経営者の中には、「家族的経営からの脱却」を公言することに良心の呵責を感じるのか、「生活の保証は政府の役割であるのに、日本では民間企業が社会的責任からそれを肩代わりして人々の面倒を見てきたのだ」と嘯き、さもこれまでの労使関係が不正常であったかのようにすり替え、転じて自分たちの主張を正当化しようと試みている者もいる。

しかし何をどう脚色しようとも、「親」と「子」の関係を解消しようと目論んでいることは純然たる事実なのだ。

迫る「親離れ」の瞬間

冒頭の「45歳定年説」への批判はまさしく「正論」である。
しかし、社会的影響力のある経営者が、その正論を知らなかったとも、理解していなかったとも思われない。
むしろ、それでも経営の本音をむき出しにすることを躊躇わないほどに、「家族的経営」は完全なる終焉を迎えたのではないだろうか。
その現実を前にして「会社は雇用する者の生活を、その労働人生が終わるまで面倒を見る責任がある」という主張は、家族的経営という幻想に対する、子の「片思い」の告白として虚しく響く。

となれば、未だなお「子」の振る舞いを続けている従業員はとても危ない立場にあることになる。
疑似親子関係は「親」によってすでに解消されようとしている。
もし、それに気づいていない従業員がいるとすれば、早急に「親離れ」が必要だ。
「子」はいずれ自らの力で人生を切り開いていかなければならないのだ。

労働組合は、自覚の有無はともあれ、「家族的経営」という幻想の片棒を担い、働く人々を導いてきた。
その結果として、幻想への憧憬を捨てきれない従業員に対しては、現実を直視させるという責任の一端を担っている。

これからの「会社」は経営者にとっても、従業員にとっても、その目的を実現するための「手段」に過ぎないものとなってゆく。

その未来を前にして、なお労働組合は「親」の前に無力な「子」の反抗という形の運動を続けるのか。
それとも従業員一人一人のありたい姿の実現を支える「仲間」が集う場へと変貌を遂げるのか。
その選択の時が迫ってきている。

竹内 進j.union株式会社 活動促進本部 西日本事業部

好きだけど自分から最も遠い言葉は「虚心坦懐」です。

« 前回の記事 次回の記事 »