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2022.07.17
新しい結衆の情報宣伝を見つけたい

■熱しやすく、冷めやすい

2022年2月末、ロシアによるウクライナ侵攻が全世界的に報じられてからもう5ヶ月が過ぎようとしている。事態は改善しているどころか、むしろ深刻さの度合いを増しているように思えるのだが、報道熱は当初に比較して冷めてきているように思える。

熱しやすく冷めやすい、それは現代社会の特徴なのかもしれない。 歴史は、熱しやすく冷めやすくあることの危険を教えてくれる。国民の熱狂は排外主義と紙一重だし、熱狂的な社会運動はこれまでにいくつもの挫折を味わってきた。ロシアによるウクライナ侵攻をめぐる報道に触れたことをきっかけとして、この数か月はプロパガンダや大衆宣伝の歴史を振り返る機会が多かった。

■ドイツ社会民主党の大衆宣伝

プロパガンダや大衆宣伝の歴史を振り返る中で、印象に残っていることはドイツ社会民主党の大衆宣伝だ。ドイツ社会民主党は20世紀初頭に「史上初の百万党員を擁する大衆組織を創出し、大衆宣伝における相当数の宣伝技術を体系的に使用した最初の大衆政党」だったと言われる(佐藤 1992 pp.7-8)。 佐藤卓己は19世紀後半から20世紀初頭にかけてのドイツ社会民主党の発展史を扇動政党―宣伝政党―大衆組織政党に整理したうえで、メディア史上の位置づけを与えている。

具体的には、口頭メディア中心の扇動政党(幹部政党)、活字メディアを中心の宣伝政党(投票者政党)、そして党組織・専従機関によって扇動・宣伝機能が代替される第一次大戦前の大衆組織政党というものだ(佐藤 1992 p.143)。政党の発展史は言わば組織の拡大史だ。

つまり、ドイツ社会民主党では、組織の拡大にあわせて適切な情報宣伝メディアが選択されてきたと言える。 尚、当然のことではあるが、古くからあるメディアが新しいメディアの登場とともに歴史の舞台からすぐに退場するわけではない。むしろ新旧のメディアが特定の歴史状況の中で固有のバランスで共在していることの方が多いだろう。

例えば、毎週のように労働組合の研修会で講師としても登壇している私のような立場からすると、アジテーションこそしないものの、講師は口頭メディアの一翼として労働組合の幹部やリーダーを組織化しているとも言える。

■大衆宣伝における漫画の台頭

ドイツ社会民主党の発展史における活字メディアのあり方は一様ではなかったことについても触れておきたい。ここでドイツ社会民主党が発行していた日刊紙の見出し総数について1897年から1915年までの変化を見てみよう(以下は佐藤 1992 p.164を参照)。

19世紀においては政治論説が見出し総数の半数を占めていたが、20世紀に入り急速に減少していく。政治論説の代わりに増えたの漫画である。両者の比率は1902年に逆転し、1909年には漫画が半数以上を占めている。 このことについて佐藤は「漫画の増加が購読者数の増大、組織化の進展と歩みを合わせており、組織化の達成後、一種の固定化が生じたと考えるならば、この時期に(中略)労働者的公共圏拡大の外向的な宣伝メディアから組織内向的な統合メディアに変質したことを示すだろう。

と言うのも、漫画つまり直観的、可視的コミュケーション手段が非党員層への宣伝において示す有効性は、論説と比較して疑う余地がないからである」(佐藤 1992 p.164)と述べ、組織化の達成の前後で活字メディアの内実が大きく変わったことを指摘している。

■拡大の情報宣伝と結衆の情報宣伝

こうしたドイツ社会民主党における活字メディアの変容は、現在の労働組合の情宣活動と組織状況を逆照射するものと言えるかもしれない。組合員の労働組合離れが指摘されるようになって久しいが、最近では機関誌にマンガコンテンツを掲載するための提案機会が増えてきた。ドイツ社会民主党において漫画は非党員層への「外向的な宣伝メディア」であったことをふまえれば、それだけ今日の労働組合では組合員の労働組合離れが進んでいるということなのかもしれない。

組合活動から離れて広く現代のメディア環境を見渡してみると、テキストだけでなく写真や動画が中心となるSNSサービスが広く普及し、スマートホンを片手に誰もが手軽に情報発信できる時代となった。「直観的、可視的コミュケーション手段」が万人に解放された時代とも言えるだろう。

労働組合が新しいコミュケーション手段を通じて拡大の情報宣伝の模索をこれからも続けていくことは当然だが、それと同時に新しい時代の新しい結衆の情報宣伝をどのように再構築するかが問われているのだと思う。すぐには熱しにくいかもしれないが、簡単には冷めないようなやり方を共に探し続けたい。

参考文献
佐藤卓己(1992)『大衆宣伝の神話 マルクスからヒトラーへのメディア史』弘文堂

 

綱島 廣太郎j.union株式会社 名古屋支店

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