事例紹介

2019.11.05
労働組合が取り組む介護と仕事の両立支援 ~全トヨタ労働組合連合会の取り組み事例~

ー「介護ハンドブック」を制作しようと思った背景を教えてください。

 全トヨタ労働組合連合会(以下、全トヨタ労連)は加盟組合の労働諸条件向上の実現に向けて、さまざまな取り組みを進めていますが、そのうちの一つに「トヨタSUNプラン」(※)というものがあります。
 これは、加盟組合が労働条件の充実や自組合らしさの実現に向けて、積極的に取り組みを進めるために、「通勤費補助」や「時間外割増率」「定年退職金」など、17の項目ごとに、段階的に目指す具体的な基準を設定したものです。 この「トヨタSUNプラン」に介護に関する項目も設けていますが、以前は、「介護休業期間の長さ」や「取得回数」といったものを基準としていました。
 しかし、仕事と介護の両立ができる環境づくりに向けては、「介護に直面した時に、多様な働き方が選択できる」「介護と仕事を両立しつつ、働く意欲が継続できるような職場環境・風土が整備されている」ことが重要です。そこで2年前に、労使の具体的な取り組みの有無も「トヨタSUNプラン」の基準の要素に織り込み、取り組みを進めることにしました。
 ところが、取り組みを進めていく過程で仕事と介護の両立支援制度について具体的な取り組みが進まない加盟組合もあることがわかってきました。その背景には実際に自社でどれくらいの方が介護に従事しているのか、介護と仕事を両立するために具体的に何に困っているのか、という情報が把握しにくい状況がありました。介護は、年休などで対応する方も多く、育児休業を取得する育児と比べるとわかりづらいという特徴があるのです。そのため、加盟組合もなかなか実態を把握することが難しく、どんなニーズがどれくらいあるかも分からないために具体的に取り組むのが難しい状況でした。 そこで、全トヨタ労連は、取り組みを前進させるためには、まずは自社の介護実態を把握することから始める必要があると考え、介護の実態把握アンケートを加盟組合に展開し、活用してもらいました。その結果、「公的な支援制度を知らない」組合員が全体の約4割、「勤務先の制度を知らない」組合員は全体の約6割にも上り、介護に関連する制度がそもそも組合員に知られていないという課題が明らかになりました。
 その一方で、「介護に対して漠然とした不安は感じる」と回答した方は8割以上と、改めて介護と仕事の両立に向けた取り組みを推進していく必要性が浮き彫りになりました。 加盟組合は、自社のアンケート結果から把握した課題の解決に向けて、労使で具体的な取り組みを進めるべく2018年の秋の取り組みに臨みました。
 しかし、こうした調査結果だけでは具体策にまで踏み込んで提案できる加盟組合は少なく、むしろ課題は分かるものの次のステップにどのように踏み出せばよいかに悩むという新しい課題も生じてきました。 こうした現状を打開し、仕事と介護の両立に向けた取り組みの前進に向けて、全トヨタ労連として何ができるかと考えた末、まずは職場役員に介護に関する公的および社内制度を知ってもらい、組合員から相談があった時に必要最低限のアドバイスができる職場環境づくりを目的に、今回の「介護ハンドブック」を制作しようという結論に至りました。
※「トヨタSUNプラン」  トヨタ・ステップアップ・ニューミニマムシステムプランの略。  労働諸条件の充実に向け、項目ごとに「エントリー・ミニマム・ホップ・ステップ・ジャンプ基準」を設定し、取り組みを推進。

ー「介護ハンドブック」のポイントについて教えてください。

 「介護ハンドブック」のポイントは三つです。
 一つ目は、実際に組合員が介護に直面した場合、最初に何をどうしたらよいのかという初動の部分を分かりやすくまとめたことです。公的な介護保険制度の概要だけでなく、「地域包括支援センター」など、いつどこに連絡したらよいのかという相談先の情報、お金はどのくらい必要になるのかという一般的な介護費用の情報、そして介護保険で利用できる各種介護サービスなどもまとめています。全トヨタ労連としては、先ほど申し上げたように、加盟組合の職場役員が組合員から介護に関する相談を受けた際に活用してもらう目的で制作していますが、介護に直面した当事者にもぜひこのハンドブックを活用してほしいと思っています。
 二つ目は、ハンドブックの冒頭で、とある青年が親の介護に直面するストーリーをマンガで伝えていることです。労働組合が発行する資料はしばしば固いものになってしまう傾向があります。もしも介護保険制度や両立支援制度を一覧にまとめただけの冊子だとしたら、なかなか多くの方に目を通していただくことは難しいのではと考え、今回は、冒頭(入り口)をマンガにして読みやすくすることで、具体的な介護のシーンをイメージしてもらい、実際に役立つ情報を届けることを重要視しました。介護について組合員が抱く漠然とした不安を少しでも解消する手助けになることを願っています。
  三つ目は、各加盟組合それぞれの会社制度を掲載していることです。先ほど紹介した通り18年のアンケートでも「勤務先の制度を知らない」という回答が数多くありました。このハンドブックを届けることで自分が勤める会社にはどんな仕事と介護の両立支援制度があるのかをもっと多くの組合員に知ってもらうきっかけにしたいと思っています。

ーこの「介護ハンドブック」を加盟組合にどのように活用してほしいですか?

 全トヨタ労連としては、このハンドブックを各加盟組合に職場役員研修で活用してもらうことをお願いしています。まずは、組合活動の最先端にいる職場役員にこのハンドブックに掲載された内容を周知することが重要だと考えました。職場には実際に介護と仕事の両立で悩み、誰にも相談できない組合員が働いているかもしれません。そんな時、職場役員たちがこの「介護ハンドブック」をきっかけに職場内で対話をすることで、組合員の力になったり、介護離職の防止に役立ててもらえたりすればと思っています。もちろんこうしたことはあくまでも労連としての想いで、実際の活用は加盟組合それぞれの創意工夫に委ねたいと思っています。例えば、会社に働き掛け、自社のイントラサイトで「介護ハンドブック」のデータをいつでも閲覧できるようにしたり、組合員だけでなく管理職層にも配布したりしている加盟組合もあります。それぞれの加盟組合の状況に合わせて活用していただければうれしく思います。

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「介護ハンドブック」 介護について、マンガで説明しているページもあり、組合員が理解しやすい冊子となっている。

ー「介護ハンドブック」を作成する上で課題はありましたか?

 ハンドブックに掲載する各加盟組合の会社制度の情報収集は、どうしても加盟組合のみなさんの協力が必要になります。多くの委員長は非専従役員として業務と組合活動を両立しながらこのハンドブックの作成に協力してもらっています。そのため、人事への確認作業などでいつも以上に負担を掛けてしまうのではないかという点が制作上の課題でした。実際に加盟組合には相応の負担を掛けてしまいましたが、それでも、このハンドブックの必要性を理解し、本当に多くの加盟組合の方々が作成に協力してくれたことには、とても感謝しています。

ー「介護ハンドブック」の反響はどうでしたか?

 このハンドブックの制作中、ある加盟組合の委員長がちょうど組合員から介護について相談を受けるという出来事がありました。その委員長が「この冊子を活用して組合員さんにアドバイスができた」と後日報告をしてくれました。実際にこのハンドブックが仕事と介護に悩んでいる組合員の一助になった初めての瞬間でした。本当に作成してよかったと感じました。他にも加盟組合の役員から「とても分かりやすい冊子ができたので、全トヨタ労連に制作を任せて良かった」との声もいただきました。とてもうれしかったです。

ー最後に、今後の展望について教えてください。

 今回ハンドブックを作成したことで、「介護と仕事の両立支援」に向けた具体的な取り組みの一歩を踏み出せたと思っています。ただ、まだそれは「一歩」でしかありません。変に不安をあおるつもりはないですが、少子高齢化やそれに伴う深刻な人手不足など、今後私たちを取り巻く環境を踏まえれば、介護と仕事の両立に向けた取り組みの重要性・必要性がますます高まってくることは間違いないと思います。
 そういった環境の中で、組合員さんが安心して働き続けるために、また会社の持続的成長のためにも、この一歩を、確実な「歩み」にしていくために、引き続き全トヨタ労連としても、加盟組合とともに取り組みを進めていきたいと思います。

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